京都大学の武田俊一教授らの研究グループは、DNAの突然変異が引き起こされる仕組みを解明した。従来の説を覆し、複製ポリメラーゼによるコピーでも、突然変異につながるという事実を明らかにした。
京都大学は2015年2月3日、同大医学研究科の武田俊一教授と首都大学東京理工学研究科の廣田耕志教授が、ケンブリッジ大学のセラ教授と共同で、DNAの突然変異が引き起こされる仕組みを解明したと発表した。従来の「複製ポリメラーゼδは乗り越えてコピーできない」という説を覆し、複製ポリメラーゼによるコピーでも突然変異につながるという事実を明らかにした。同研究の成果は、同年1月27日付けの英科学雑誌『Nucleic Acids Research』の電子版に掲載されている。
ヒトは、30億文字にも上るゲノム情報を、DNAを通じて次の世代へ受け渡している。しかしそれには、「正確」に情報をコピーする必要がある。複製ポリメラーゼδは、正確にDNAをコピーし、自らエラーを見い出し直すことができるが、DNAに傷があるとコピーを継続できず、機能停止するとされていた。また、DNAの傷でコピーが停止すると、複製ポリメラーゼはTLSポリメラーゼと呼ばれる特殊なポリメラーゼ群にコピーを肩代わりしてもらい、停止しないようにする。この時、TLSポリメラーゼによるコピーでエラーが発生し、突然変異の主要な原因になると考えられていた。
今回、同研究グループでは、傷ついたDNAでの複製ポリメラーゼδの動きについて解析を行った。実験では、複製ポリメラーゼδの機能を変異で一部弱めると、DNAの傷を乗り越えてコピーすることができなくなった。また、複製ポリメラーゼδがDNAのキズを乗り越えてコピーをする場合にも、突然変異が大量に発生することが判明。さらに、この乗り越えは、従来のTLSポリメラーゼとは独立して行われていることが分かった。
DNAの傷を乗り越えてコピーするがん細胞の活性が増加しており、抗がん剤の効果を低下させる原因となっていることが近年分かってきたという。「複製ポリメラーゼδもDNAの傷を乗り越えてコピーをし、突然変異を発生しうる」という今回の研究成果は、抗がん剤開発や化学物質の発がん性評価などへの応用が期待できるとしている。
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