これを解決する策として、井上氏が提唱しているのが生産を「ミニマル(1000分の1)」にするというミニマル生産方式だ。ミニマルファブの開発のプロジェクトは最初ファブシステム研究会を中心に2010年にスタートした。最初は約30社だったが現在は100社にまで拡大し、国家プロジェクトにも取り上げられた。
ミニマルには「必要最小限」という意味もある。「本当に必要な規模のラインを作ってそこで生産していくという考え方だ。従来5000億円を投資していた工場では、生産規模が12インチでウエハー月産2〜3万枚のものだった。しかし、ミニマル生産システムでは、投資金額を5億円に落として、ウエハーサイズも0.5インチにする。しかも、クリーンルームも使わないというのが1つのコンセプトでもある」(井上氏)。
ミニマルファブの目指すビジネスは、チップ生産100個から1万〜10万個をターゲットにしていく考え方だ。ワールドワイドの半導体市場規模は30兆円で、チップ生産個数年間100万個を境にしてそれ以上(100万〜1億個)とそれ以下(1〜100万個)では15兆円ずつの市場があるとみられる。100万個以下でも大きな市場があるという予想を立てて、その市場の獲得を狙っていく。
これらを実現するための装置のリファレンスモデルを開発しているのもミニマルファブ構想の特徴だ。ミニマルファブによる装置は、横幅30cm、奥行き45cm、縦144cmの細長い筐体で1プロセスを実現する。中に使うウエハーはハーフインチ(12.5mm)。それを運ぶウエハーのケース(ミニマムシャトル)は直径4cmであり、これでウエハーを一個ずつ運び、装置間をやりとりする。また、生産システムにはどの装置とも共通化した微粒子とガス分子を遮断する局所クリーン化前室システム(PLAD)を設ける。これにより、簡単に装置間のウエハーをやりとりできる仕組みとなっている。装置開発については本体のプロセスチャンバー部分だけを導入先のそれぞれが独自に開発するだけで、全体のシステムはPLAD側でコントロールできるようにしている。また、真空PLADも用意する(関連記事:オフィスフロアのスペースに半導体工場ができる! ミニマルファブ向け装置)。
ミニマルファブの特徴について、井上氏は「究極の1個生産」とする。つまり、1ロットが1枚チップであり、それが1枚のウエハーとなる。さらに、超短TAT(ターンアラウンドタイム)であることから基本条件として1プロセス1分ということで進めており、全工程が仮に300工程あったとすると300分で全工程を終了することを目指す。その結果、1カ月の生産数量は4万3200枚。年間50万個の生産が5億円の1ラインで可能となる。もう1つはPLADとシャトルの組み合わせでクリーンルームを必要としないため、小さなスペースで対応できるところにある。この他、研究開発用装置と量産装置がイコールであることから研究開発から量産まで「死の谷」が存在しないというメリットも考えられる。
メガファブと比較してみると納期についてはメガファブが数カ月かかったものが、ミニマルファブでは数日。コストについても、「大量生産すれば当然メガファブのほうが安い。しかし、1万個注文するのであればメガファブでは1万円(1cm2)だがミニマルファブでは1200円ということになり、マーケットとして受けられる価格となる」と井上氏はこの価格の差を大きく指摘する。
ミニマルファブの構築を実現するため、各種の装置の開発の時点からの規格化を図っている。そのため、包括的な権利確保戦略を推進。標準化や知財、ブランドなどを管理し、最終的には認証化を図り、ロゴを発行してこの規格に合った装置だけをミニマルファブとして認定する。「そうすることで安心して使えるものだけを提供できる。こうした戦略はこれまで日本ではやってこなかった大変大きな事業となる。日本の得意な小型化技術開発と包括戦略との組み合わせにより世界で展開していきたい」と井上氏は将来のグローバル展開を視野に入れている。
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