本連載では設備保全業務のデジタル化が生む効用と、現場で直面しがちな課題などを基礎から分かりやすく解説していきます。今回は、現場でのデータ収集を効率化する、IoTの活用について説明します。
連載第4回の記事では、設備保全の基礎理解と、経営/現場の構造的な課題について以下の通り整理しました。
今回は、現場でのデータ収集を効率化する、IoT(モノのインターネット)の活用について説明します。
IoT(Internet of Things)とは、RFIDやセンサーによって、コンピュータが人を介さずにThing(モノ)の情報をInternet(インターネット)を介してやりとりする仕組みを指します。IoTという言葉の活用は2000年ごろから始まり、近年ではスマートホームや工場の自動化など、われわれの日常生活および産業界において急速に普及しています。
通信技術の発展やセンサーコストの低下により、初心者でも導入が容易なIoTデバイスから、複雑なシステム構築を必要とする上級者向けの事例まで、幅広い利用シーンが広がっています。
IoTは業務効率の向上に寄与します。センサーやRFIDなどを通じて自動的にデータを収集できる(自動化できる)ので、人手に依存しない運用が可能になります。
膨大な工場を端から端まで自転車や徒歩で回ることなく、定期的に、同時に、正確に、1箇所でデータを蓄積できます。
また、IoTは省エネルギーやコスト削減にも寄与します。必要なタイミングだけ稼働させたり、設備の稼働を制御したりすることも可能です。リモート監視によって異常検知の箇所に絞って人員リソースを投入できます。
製造現場におけるIoTの活用は、全体から見るとまだまだ少ない状況です。当社が行った独自調査によると、全体の約5%の普及にとどまっています。ただし、企業としてDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性の課題を認識しており、かつ対策を講じている企業群に焦点を絞ると、その企業群の45.5%がIoT機器の導入/活用を推し進めています。このことから、IoTの活用はモノづくりにおけるDXの有力候補である、と言えます。
IoTの活用に取り組む企業に深掘りのインタビューを行っていくと、いくつかの傾向が見受けられます。
まず、具体的に測定する項目として「温度」「電力消費量」「水位」が多く挙げられていました。これらは日々の測定としても分かりやすく、測定結果も解釈がぶれにくい情報といえます。
その他に、IoT機器の導入事例や検討事項に上がりやすい測定データとしては「振動」があります。規模の大きい企業では「データの測定はしている」と一定の回答が得られるものの、「分析結果からの成果は限定的」という回答も多く見受けられました。振動数のデータは周辺の振動も拾ってしまうこともあり、扱いが難しいようです。
これらのデータの測定箇所、測定件数、分析結果の活用などを正確に回答できている企業は、突発停止や修理部品のコストなどを質問してもかなり正確に答えることができており、かつ、突発停止の復旧のノウハウも洗練されている印象です。
ある自動車部品メーカーでは、突発停止による納期遅延のリスクが高まっているときに、一気に残業して納期を取り戻すのではなく、「1日15分前後の残業で取り戻せることが見えている」と回答しています。現場の従業員も納期順守のマインドセットと残業バランスが両立できている点が印象的でした。
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