VR研究を行う廣瀬氏は、一般に浸透してきたVRの現状や、社会におけるVRの位置付けの変化について語った。VRという言葉の登場は1989年で、今年(2014年)で25年だという。機械工学全般から見れば非常に新しい技術だが、比較的新しい技術の中で見ればすでにワンサイクル終わっている。つまり、“それなりにこなれた技術”の1つだということだ。
1989年当時は、一般人が手の届かない、面白くて特殊な技術として、テレビなどで取り上げられていた。現在は、一般人の日常に存在し、かつ安価で入手しやすくなった。VR技術を使う側から見れば、安くクオリティの高いものが手に入るようになった今がよいチャンスだという。
今、VRは第2世代に突入しつつある。典型的な例がHMDの「Google Glass」や「Oculus Rift」である。HMDというアイデア自体は1989年当時からほとんど変わっていないが、当時の価格は約400万円で解像度はたったの100×100ピクセル程度だった。今はハイビジョンで処理も速くなり、かつ販売価格も10万円を切っている。FacebookがOculus Riftの製造元を買収するなど実用的な領域へとコマを進めつつある。
設計製造分野でVRと関連してくる技術が3Dプリンタだという。VRではHMDを使ってバーチャルな空間で、視覚によってものを認識することを想定していたが、3Dプリンタがあれば目の前に実物ができるので、HMDと相補的な関係となる。「この装置のインパクトは、機械屋が一番分かっていないかもしれない」と自身も機械工学をバックグラウンドに持つ廣瀬氏はいう。「実際にモノを作っている人は『おもちゃだ』と言うが、大事なのは、プロではなくても3次元でモノが作れる時代になってきたことだ。工場でなく、(FabCafeのように)飲食店に置かれる時代だ。こういう今までとは違った展開が起こっていることはとても重要だ」(廣瀬氏)。機械分野の人の3Dプリンタに対する反応は、VRやまたサイバーフィジカルといった技術に対する反応とも通じるという。また廣瀬氏は感情・感覚と工学との結びついた技術など研究段階のVR関連技術を紹介し、情報と現実やその運用を総合的に考える重要性を示した。
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