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» 2014年12月03日 08時00分 公開

被災地の思いを乗せて飛ばなきゃ――鳥人間王者・Windnautsの秘密(前編)鳥人間コンテスト インタビュー(3/3 ページ)

[加藤まどみ,MONOist]
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軽さを徹底的に追求した機体

 軽さを実現するための大きなポイントが、主翼の端から端まで渡される主要骨材である主桁(しゅげた)の形状だ。この主桁の断面は、縦に長い楕円形である。これは力の掛かる方向に対する強度を保ちつつ軽量化するためだ。骨材料はアルミパイプに「プリプレグ」と呼ばれる材料シートを巻いて作る。楕円形だと当然、真円形よりもはるかに手間が掛かる。なおプリプレグは常温では劣化するため冷凍保存されている。そのため製作時には解凍から硬化作業までを一気に行わなければならない。この作業に30時間ほどかかるため、桁焼きの時期は、毎週金曜の夜から日曜の朝まで泊まり込みで作業にかかるそうだ。

 また主翼には主桁だけでなく後縁側に「リアスパー」を配している。主桁のみだと頑丈さを高めるため重量が増える。2本あることにより主桁とリアスパーをメインとしたトラス構造尾を形成することができ、翼の前後方向の変形やねじれに強くなるとともに、桁重量も抑えられているという。この桁の設計も毎年設計者がかなり時間をかけて行っている部分だという。

 もう1つの軽さを実現するポイントが、主翼中央にV字に付けられる4度の初期上反角だ。これは一度桁を切って4度に削った上で再結合している。通常のまっすぐな翼だと、地上にいる時に翼の端を地面に擦ってしまう。それを防ぐために、中央にキングポストと呼ばれる支柱を立てて、翼をワイヤで吊り下げる。だがその場合は重量が増える上に、飛ぶ際に支柱とワイヤの空気抵抗が加わる。これらを避けるために、あえて初期上反角を付けているということだ。

主翼の主桁中央、初期上反角の付いている部分

 このようにさまざまな工夫の積み重ねによって大幅な軽量化を可能にしている。一方で精度へのこだわりも相当なものだ。小田さんによると「機体の精度は翼の後縁に表れる」という。主翼内には桁に垂直な前後方向にリブが大量に並ぶ。よく飛ぶ機体はここがそろっているという。「1つ1つの精度をないがしろにしていくと蓄積が出るのが後縁部や継ぎ目。そういう意味で精度にはかなり気を使っている」(白畑さん)。

主翼の製作

 なお人を乗せる機体であるために大事なのが安全性だが、Windnautsでは大会の安全規定に加えて独自ルールを決めてチェックしているという。例えば設計時に最低安全率3倍以上で設計する、機体主要材料であるカーボンの破壊試験、翼桁に対する最大1.5Gの荷重試験、発進時のクルーの練習などだ。「日ごろから人を乗せて飛ばすということを十分に意識しながら作業を進めている」(白畑さん)という。

勝つヒントは「パイロット」

 徹底的に軽さと精度へのこだわりがみられる機体だが、「勝つ秘訣」を尋ねると、「パイロットの育成」だという答え。優勝は機体の性能、パイロットの操縦スキル、当日のフライト戦略が合わさって初めて可能になる。機体がある程度成熟してくると、その先はパイロットがカギを握るようになってくるという。とくにWindnautsでは「パイロットの操縦訓練と当日のフライト戦略をしっかりするようになってから優勝するようになった」(白畑さん)そうだ。

 機体の設計出力220Wは、一般人が人力で出す場合には5〜10分も維持できればよい方だ。さらにラダーを使う場合などは250W以上になるため、パイロットは260Wで2時間漕げるようトレーニングするという。

朝もやの中飛行テストをする2011年度メンバー

 一方、操縦の練習は、シミュレータやラジコンを使い、ラダーと回転数の関係や風に対してどう旋回すればよいかなどの感覚を身に付ける。そして機体が完成した後、テスト飛行に移る。平日にはグラウンドに朝3時に集合し、機体を組み立てて日の出とともに飛ばす。7時ごろにテスト飛行を終了してからブリーフィングを行い、その後授業に出るというハードなスケジュールだ。これを毎年10回以上行うという。休日には宮城県角田市の角田滑空場に行き、比較的長距離での練習や機体調整を数回実施する。「テスト飛行の飛行距離は10kmを軽く超えるのではないか」と小田さんは言う。これだけテスト時間を取ることにより、パイロットの高い熟練度を毎年維持できているというわけだ。機体の技術とパイロットの訓練、両方が合わさって2011年、2012年の優勝は実現したと言えるだろう。



 次回後編は、2011年3月11日の東日本大震災当日のエピソードから紹介!(次回に続く

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