これらの状況に加えて、さらに厳しい状況になっているのが、エレクトロニクス部門の主力と位置付けてきたモバイル事業の赤字転落だ。同社ではエレクトロニクスの主力3事業として、ゲーム&ネットワークサービス、モバイル、イメージング関連事業の3つを掲げて取り組みを進めてきており、これらの成長でテレビ事業などをカバーしていく方針を示していた。
スマートフォンを含むモバイル・コミュニケーション分野の業績は、「XPERIA」シリーズによる高付加価値化戦略が奏功し販売台数が順調に拡大。2014年度は大幅な増収増益を目指していた。それに伴い、プレミアムセグメントでの製品力強化に加え、普及価格帯製品を充実させ、新興国市場なども視野に入れた拡大を目指す戦略を進めてきた。
しかし、第1四半期の結果では、この普及価格帯モデルが大苦戦。年間5000万台としていた販売目標台数を4300万台に下方修正した他、通期の営業損益も従来目標だった260億円の黒字からブレイクイーブンポイントまで引き下げ、中期計画を再検討する事態に陥った。
吉田氏は「見通しが甘かったといわざるを得ない。2014年度は普及価格帯へのラインアップを増やし、地域的にも拡大する形で展開してきたが、特に中国と南米で思った通りの販売を行うことができなかった。市場全体の販売台数が思ったほど伸びなかったことと、中国や新興企業の攻勢に競り負けたという2つの問題があった」と話している。
新たなモバイル事業の中期計画については「できる限り早く開示する」(吉田氏)としているが、基本的には地域やキャリア、商品構成を絞り込み「量より質を重視した事業展開へと移行する」と吉田氏は話している。減損会計を行わなければならない可能性もあり、その際には「モバイル事業が通期で赤字転落する可能性もある」(吉田氏)としている。
ソニーでは、エレクトロニクス事業の構造改革を何年にも渡り取り組んできている。大きな赤字を出していた事業には、ゲーム事業、モバイル事業、テレビ事業などがあるが、まずPS3が黒字転換し、PS4が順調な滑り出しを見せたゲーム事業が安定した黒字を生み出す事業構造になった。さらに、昨年度以降、XPERIAシリーズをヒットさせたモバイル事業が黒字化への道筋を見せ、後は慢性的な赤字体質となっているテレビ事業を黒字反転できれば、黒字化できそうなところまで来ていた。しかし、今回のモバイル事業の赤字転落により、再びエレクトロニクス事業の黒字化は見えない状況に陥ったといえる。
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