“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”JINS MEMEはなぜ生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(2)(4/4 ページ)

» 2014年07月01日 11時00分 公開
[小寺信良MONOist]
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社会に貢献するデバイスだという必然性

 冒頭でジェイアイエヌはメガネを「機能軸」で発展させ、新たな価値を提供することを目指していることを紹介した。

 「メガネ」というデバイスは、イタリアでおよそ700年前に誕生したが、その時から今まで、基本的な形状はほとんど変わっていない。鼻でレンズを支え、ツルを伸ばして耳で固定するという形状だ。メガネを掛けている人を見て、変な格好だとは誰も思わない。これは、メガネが社会に受け入れられた「形」であるからだ。一般に公開されているMEMEのデザインは、多くのセンサーが内蔵されているようには見えない「普通」のデザインとなっている。

 この社会に受け入れられた形である「メガネのデザイン」を生かしてMEMEが提供する新たな価値とは何なのだろうか。ジェイアイエヌは新たな機能が提供する価値として「社会的な必然性を意識している」(井上氏)というが、MEMEを通じて目指す目標は「メンタルヘルス(精神の健康)問題の解決」である。

メンタルヘルス問題を解決するために何ができるか

 「メンタルヘルス」という言葉が社会問題として取り上げられるようになったのは、1980年代半ばのことだろうと思う。実は筆者もその頃、最初に勤めたテレビ関係の会社で精神疲労を理由に業務改善を求めたが、認められなかったという経緯があるので、よく覚えている。結局は自分の精神を守るために、自己都合ということで退職することとなった。

 肉体の疲労は、客観的にも主観的にも判断できる。荷物が持ち上がらない、もう走れない、眠ってしまう、そういった症状が出れば、管理者は休ませる必要があるということが分かる。だが体の疲労と違い、精神の疲労は主観的にしか計測できない。だから「疲れました」と言っても、管理者にもなかなか認めてもらえない。元気そうじゃないか、で終わってしまう。何かおかしいんじゃないか、と周囲が気付いたころには、手遅れになっている。

 さらに問題を大きくしているのは、精神的に疲労しているのが、その疲労を抱える本人が判断できていないケースがあるからだ。他人も大丈夫だと思い、本人も大丈夫だと思って同じ状況がずっと続いた結果、いきなり鬱などの精神疾患に至る。これでは原因も特定できない。このため、メンタルヘルス問題は、社会問題として、足踏み状態にあるといえる。

 MEMEは発売日を2015年春としているのは「事前に発表することで、研究者や企業などと用途や研究内容などを共同開発することを求めたからだ」と井上氏は語る。実際にかなりの反響があり、既に開発力のある企業からいくつも問い合わせが来ているという。

 アプリケーションとしては、まずは企業の管理者が、業務管理や業務改善に使うというアプローチがあるだろう。もちろんそれは、眼球運動と疲労との関連性の研究と二人三脚で進めることになる。さらに特定の企業だけでなく、集積したデータをオープン化することで、市井の開発者に自由に分析、研究してアプリケーションを開発してもらえるようなやり方もできるだろう。

 将来的には、それらBtoBで作り上げたアルゴリズムを汎用化し、BtoCとしてのアプリケーションを展開する。例えば自分のログ管理の一貫として、自身のスケジュールと疲労度のデータを同期させて労働形態を見直したり、クラウドにステータスを蓄積して生産性の変化を可視化するような利用も可能になってくる。

 「MEMEは、コンセプト発表直後はどういうガジェットなのかというところに興味が集約されていたが、センシングできるデータの内容や社会的意義が伝わっていくにつれ、多くの研究者達から学術的テーマとしても興味深いと、次第に評価が高まっている」と井上氏は語る。

 いつの日か、すべてのJINSのメガネにこのセンサーが内蔵されるようなり、多くの人が自分自身の働き方や活動を、客観的に捉えることができるようになるかもしれない。そうして精神疾患や、さらには事故死といった不慮の事態を避けることも、またできるようになるかもしれない。

 これまで根本的な解決に至らなかった社会問題を解決する。そのプロセスにわれわれは立ち会い、また参加していくことになるのだ。

(次回に続く)


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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