カナダの大学のスピンオフ企業が、スマートフォン/タブレット端末と光センサーを使って血中酸素濃度を測定できるシステムを開発した。専門的な医療機器レベルの診断が可能であるにもかかわらず、価格を40米ドル程度に抑える。
発展途上国では、医療設備やリソースの不足によって多くの人が命を落としている。特に、最も手厚いケアが必要な妊娠中の女性や新生児、子どもが満足な治療を受けられずにいる。だが、こうした状況をスマートフォンで打開できる日がくるかもしれない。
カナダ ブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)のスピンオフ企業であるLionsGate Technologiesは、カナダの政府機関と個人投資家から200万米ドルの資金提供を受けて、「Phone Oximeter」を開発した。
Phone Oximeterは、アプリと医療用センサーを組み合わせたもの。光センサーを患者の指先に当てて血中酸素濃度を測定する。センサーは、あらかじめ専用アプリをダウンロードしたスマートフォンやタブレット端末、ノートPCに接続されている。これらのモバイル機器が、医療レベルの診断が可能なパルス酸素濃度計として機能する。これにより、医療従事者は、母体や胎児の健康状態を左右する血中酸素濃度などの重要な測定値をモニタリングできるようになる。
患者が肺炎などにかかっている場合、血中酸素濃度が低い場合があり、Phone Oximeterによってこうした疾患を簡単に発見できるようになる。途上国では毎年、肺炎によって100万人以上の子どもが命を落としている。Phone Oximeterの販売開始時期はまだ未定だが、LionsGate Technologiesによれば、目標価格を40米ドルに設定しているという。これは、高性能な医療用パルス酸素濃度計と比べて8割も安い。
ブリティッシュコロンビア大学のGuy Dumont博士は、プレスリリースの中で、「医療レベルの性能を実現しながらも価格を抑え、医療リソースの乏しい国でも広く利用できるようにした」と述べている。Dumont博士は、Mark Ansermino博士とPeter von Dadelszen博士と共同でPhone Oximeterを開発した。
Phone Oximeterは、妊娠の合併症のうち、高血圧が原因で発症する子癇前症(しかんぜんしょう)を診断できるという。子癇前症の診断や予防を推進する米国の非営利組織であるPreeclampsia Foundationによると、子癇前症は、妊婦の3大死亡要因の1つとなっている。毎年、世界中の約1000万人の妊婦のうち7万6000人が、子癇前症や同疾患に関連した合併症で亡くなっている。また、子癇前症で亡くなる胎児と乳児は50万人を超えるという。
von Dadelszen博士は、「毎日1600人もの妊婦や乳児が子癇前症によって命を落としている。これは見過ごすことのできない事態だ。さらに、子癇前症による死亡の99%以上が発展途上国で起こっている」と述べる。
LionsGate Technologiesによれば、次の段階として、長期間にわたる臨床試験を行うという。試験は、インド、パキスタン、モザンビーク、ナイジェリアの4カ国において、8万人の女性を対象に行われる予定だ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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