スチールとアルミニウム(アルミ)を適切に組み合わせれば、十分な強度を持つとともに、低価格かつ軽量な自動車部品を製造できる。このスチールとアルミを用いたハイブリッド構造の自動車部品開発に注力しているホンダが、高級セダン「アキュラ RLX」のドアパネルに採用した新技術を発表した。
安価で高い強度を持つスチールと、高価だが一定の強度を持ちスチールよりも軽量なアルミニウム(アルミ)を適切に組み合わせれば、価格を低減しながら、十分な強度を持たせられるとともに、軽量化も実現した自動車部品を製造できる。しかし、スチールとアルミを組み合わせるための製造技術にはさまざまな課題がある。
このスチールとアルミを用いたハイブリッド構造の自動車部品製造技術の開発に注力しているのがホンダだ。同社は2013年2月18日、スチール製とアルミ製の部材を結合して1つの自動車部品を製造する技術を新たに開発した。同技術を用いて、従来は全てスチール製だったドアパネルのうち、アウターパネルだけをアルミに置き換えることに成功した。北米市場で2013年3月に発売する高級車ブランド「アキュラ」のフラッグシップセダン「RLX」のドアパネルに採用した後、順次採用を広げていく方針だ。
今回発表した技術は、3つの要素技術で構成されている。1つ目は、スチール製とアルミ製という異種金属のパネル部材を結合する上で、剛性を確保するのに用いる「3Dロックシーム」構造である。従来、2枚のスチール製のパネル部材を結合する場合、一方のスチールパネルでもう一方を包み込むように1段曲げしてから、スポット溶接で結合していた。これに対して、3Dロックシーム構造は、アルミパネルでスチールパネルを巻き込むように2段曲げすることで結合を実現する。スポット溶接を行う必要はない。
2つ目の技術は、スチールとアルミを組み合わせた部品に、水分や塩分が入り込んだ場合に起こる電食(さび)を防止する技術である。今回は、スチール製のインナーパネルに高防食性の鋼板を用いるとともに、スチールとアルミが接する部分に水分や塩分が入り込まないように、接着剤を確実に充填できる形状を採用した。
3つ目になるのが、スチールとアルミの膨張率の違いによる熱変形を防止する技術だ。これについては、独自開発の低弾性接着剤の採用で膨張率の違いを吸収しつつ、2段曲げを行う3Dロックシームの位置も最適化した。
生産ラインについては、ドアパネルのインナーパネルとアウターパネルの結合に用いていた従来のものをそのまま利用できる。その上、3Dロックシーム構造の採用により、スポット溶接の工程も削減可能だ。
同技術を使って製造したドアパネルは、アウターパネルをアルミ製に置き換えているので、全てスチール製のドアパネルと比べて約17%軽量化されている。さらに、車体外側が軽くなってコーナーリング時に慣性がかかりにくくなるなど、採用車両の操縦安定性も向上するとしている。
ホンダは、今回の技術に先駆けて、2012年9月に発売した北米市場向け「アコード」に採用した、スチール製とアルミ製の部材で構成されるフロントサブフレームの連続接合を、摩擦撹拌(かくはん)接合(FSW:Friction Stir Welding)によって実現している(関連記事)。
従来、スチールとアルミといった異なる素材の金属部品を連続接合することはできなかった。このため、異なる素材の金属部品を使って高い剛性を持った1つの部品として組み上げるには、ボルトやリベットなどの留め具を使用しなければならなかった。FSWの適用により、これらの留め具が不要になり、その分だけ重量やコストも減らせるわけだ。
アルミ製の部材を部分的に採用したアコードのフロントサブフレームは、全てスチール製だった従来のものと比べて、重量が25%削減されている。
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