カウル(車体のカバー)については、機能的な優先順位が低いこと、シャーシを含めたマシン製作が終盤にならないとフィッティングできないことからか、平面や曲面が甘いものが多かった。中には、空力にこだわった形状を持ち、面のスムーズさやツヤがとても美しいものもあり、聞けば、「カウルと言えば、彼」というような職人肌のメンバーがほぼ1人で作っているとのことで、素晴らしい仕上がりであった。
さらに実際のモノづくりだけではなく、この大会ではコスト解析やプレゼンテーション、設計について静的審査され1000点満点のうち325点が割り当てられていることから、資料作成や人前でのプレゼンなど自分たちの思いを他人にきちんと伝える能力も求められている。
ここまでの膨大な仕事量を考えると、それなりの人数が必要であり、多くの中小企業と同等かそれ以上の規模の組織で、異なったタレントをまとめるマネジメント能力とリーダーシップが最後のキーポイントとなる。各チームのリーダーにコメントを求めると、皆理路整然と自チームのことを語ってくれた。企画から設計、製作、組み立て、試運転、調整まで「自らの力でここまでやってきたんだ」という自信に満ちあふれた態度は、とても二十歳そこそことは思えないほど、しっかりとしていて、とても頼もしかった。彼らに就職のことを聞けば、「○○自動車に就職が決まっています」とうれしそうに話してくれたことも印象的だった。
ここで彼らに言いたい。
――これから先の日本の将来を考えたとき、本当に自分のやりたいことや大きい変化を起こせるのは、どういう会社か? 閉塞(へいそく)感漂う現状を打破できるのは、どのような会社なのか? この学生フォーミュラ活動をやってきた君たちが、実際に社会に出てやるべきことは何なのか?
順位に関係なく、ここまでのことをやり遂げた君たちであれば、大概の会社で即戦力として活躍できるし、時代の変換点である現代のヒーローになれる可能性だってある。
大企業の大きなリソースを生かした先端技術開発も魅力的に映るだろう。しかし、フットワークが軽く、好きなタイミングで本当にやりたいことをやれるのは中小企業ではないのか? もしくは、自ら企業家となってそういう会社を立ち上げることではないのか? 今の日本の大企業、特に製造業で決定権限を持つためには、年功序列が現実であり、いろいろな制度や若手登用もあるにしても、社長になるにはやはり相当な年月と運が必要だ。対して、海外では40そこそこ、ともすれば30代で社長になることがざらである。
そうしたときに、どちらが思い切った決断をできるだろうか? 君たちは、自分で自分の将来を決断できる自立した人間である。だとすれば「若さ」という、いくらでも失敗がゆるされる特権のあるうちに、できるだけ思い切った仕事をした方がいいし、モノづくりの無数のプロセスの中で活躍する場は必ずある。チームリーダー経験者であれば後継者不足の中小企業の社長になることは簡単だろうし、モノづくりの好きなメンバーであればその能力を生かせる会社はたくさんある。
特に、今はやる気のある視野を広く持った若手経営者がたくさんいるので、ぜひ自らそういう会社を探してみてほしい。小さい会社であれば自分次第でどうにでもなる。大学に求人票の出ていない会社に自ら飛び込んで行って社長になるなんてストーリーは最高ではないだろうか?
そして、われわれ中小事業者も、君たちのような優秀な人財を探しに行こう。今回、この大会を見学させていただいて1つひらめいたのが、大会現地での特急部品製作である。今でも溶接機やボール盤などの簡単な加工設備は常備してあって、車検落ちしたマシンや壊れてしまった部品製作をスポンサー企業の社員の方が手伝っている。
そこに工作機械メーカーとコラボレーションして、NC旋盤やマシニングセンターを持ち込み、われわれ中小製造業の連合チームでオペレーターを派遣しCAD/CAMを駆使してマッハのスピードでパーツを作るというのはどうだろうか? われわれの熟練作業者の動きは、きっと君たちの目にも魅力的に映るはずである。
――筆者自身、今回この大会を見学させていただいて、「今の日本の若者はスゴイ」と思えたし、「彼らが思い切ってチャレンジすることができる場を作ってあげることができれば、これからの日本の未来が開けてくる」と確信できた機会となった。
関ものづくり研究所 関伸一氏による大会レポートも近日中に公開予定です(編集部)。
山下 祐 (やました ゆう)
日本大学理工学部機械工学科卒業後、レース活動を続けるために中小製造業に入社。現場加工経験を経て技術営業の経験を積む。その後社長となり会社を引っ張ってきた。
平成22年4月に株式会社シンクフォーを立ち上げ、中小製造業として生き残りを掛けて、何にでも取り組む決意で業務を遂行中!! (レース経歴) 大学在学中よりレース活動をスタート。就職と同時に本格的にレース活動を進め、1994年に国際A級ライセンス取得。GP125、ST600、JSB1000、GP−MONOクラスに参戦。参戦した全てのクラスでポイント獲得経験あり。GP−MONOクラスでは2006年に全日本チャンピオン獲得。豊富なレース経験と製造業ならではの感覚で専門誌にインプレッション記事を寄稿するなど活躍。
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