自動車の設計製作技術を競う、学生のためのモノづくりコンペティション 全日本学生フォーミュラ大会。本稿では、主にこの大会についてまだよく知らない人たちのために、大会の概要やレギュレーション、見どころなどを紹介する。
今日の日本では若者の理系離れや製造業離れが顕著で、製造業における技術継承や人材育成の問題は深刻化しています。そんな状況を力強く打開しようと行われている学生フォーミュラ大会は、特に人材育成関係で苦戦されている方にとっては、そこから大きなヒントが得られるきっかけとなるかもしれません。また、学生たちの熱気を目の当たりにすることで、「自分たちの学生時代に、こんなサークルがあったら入っていたなぁ」と、思うかもしれません。この記事では、「学生フォーミュラ大会とはそもそもどういうイベントなのか」を大まかに紹介していきます。
この大会は平日を中心にして開催し、参加者や関係者以外の一般来場者にとっては少々不向きな日程もありますが、この記事ではその点も踏まえた見どころなども紹介していきます。
編集部より:この記事は、大会のスケジュールやレギュレーションの大きな改正が入らない限りは毎年読んでいただけるよう配慮しています。また、レギュレーションは年々改正が入っていますので、公式サイトでもご確認ください。
全日本 学生フォーミュラ大会では、学生たちが自分たちで設計・製作したフォーミュラスタイルといわれる小型車両を持ち込んで、設計コンセプト、コスト、走行性能などを含めた「ものづくりの総合力」を競い合います。米国の「Formula SAE」の日本版として、2003年から自動車技術会によって始められました。
それぞれの学校で結成したフォーミュラチームが1年かけて、フォーミュラカーという小型車両を1台作ります。毎年9月に静岡県袋井市の小笠山総合運動公園(通称「エコパ」)で行うフォーミュラ大会では、その成果をぶつけていきます。
参加校については、工学系の大学や専門学校だけではなく、総合大学の参加も見られます。2月下旬までにエントリーしたあと、デザインレポートやコストレポートなどの書類が審査され、その選考を通過したチームだけが大会に参加できます。
それぞれのチームの中には、文系の学生も多く見られます。大会で競われるのが、技術そのものだけではないからなのです。車両を作るためにはコストが掛かり(300万円ぐらい)、自力での製作が厳しいエンジンなどは供給してもらう必要があります。黙っていては誰も助けてくれませんから、自分たちでチームスポンサーとなる企業を募らなくてはいけないのですが、そういった場面で文系の学生たちが営業や広報、書類作りなどでその手腕を発揮するのです。
この大会は「フォーミュラ」と名前についていても、F1(Formula 1)のようなレースだけではありません。大会で走行するためには、厳しい車検を通さなくてはなりませんし、企業で行われる設計審査のような「プレゼンテーション審査」も行います。このプレゼンテーション審査も、文系の学生たちの腕の見せ所でもあります。
設計製造の世界はまだまだ男性社会だといわれますが、この大会では女性がたくさん活躍していますし、女性のリーダーもいます。記者も一女性として、彼女たちの卒業後の活躍に、大いに期待したいところであります。
優勝校については、トロフィーと支援金が贈られ、11月にオーストラリアで開催する学生フォーミュラ大会「FISITA Formula SAE World Cup」に出場できます。
アメリカやオーストラリアの大会は日本の学校にとっては、まだ厳しいレベルであるといわれます。ただ日本のフォーミュラ大会のレギュレーションもアメリカ大会のものを基にして作られています。つまりグローバルで戦うための知識の基盤は整えてあるということですから、それぞれのチームでの技術伝承が今後も確実に繰り返されるならば、案外近いうちにそこへ追いつくでしょう。
このように、学生フォーミュラは、モノづくりのすべてをトータルで学ぶことができ、かつ海外を意識することもできるという効能があるといえます。書籍やコンピュータ上での学習だけではなく、体験を伴っている(体で覚える)点も強みではないでしょうか。
部品加工や組み立て現場を体験したことがなく、3次元CADでの設計から入ったような人の中には、恐ろしくミクロな部品、もしくは巨大で重たい部品を設計してしまう人もいます。部品の実感が湧かないため、自由自在にビューが変更できる環境下でスケール感覚が狂ってしまうのですね。それは昔ではあり得なかった“設計の世界の現代病”ともいえそうですが、実際の部品を見たり、自分で部品加工したりしていれば、そのような感覚に強く支配されることはありませんよね。
なお大会発足の歴史については、「学生フォーミュラのこと、もっと知ってください」をご覧ください。
下記は、大会で定められている主なレギュレーションです。車両はアマチュアレーサーが乗れるようにすることを前提としています(大会公式ページより)。
なお、車両コストの上限規制(2万5000USドル以下)は第7回(2009年開催)から撤廃されました。詳しくは大会公式ページの「ルール」の項目をご覧ください。
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