自らもスポンサーとして学生フォーミュラチームを支援してきたレーサー社長が、学生フォーミュラ大会を訪れた。そこで見た学生たちの姿と、筆者が思い描く日本の未来とは。
まだ暑い2012年9月6日、静岡県袋井市にあるエコパ(小笠山総合運動公園)で開催された「第10回 全日本学生フォーミュラ大会」を観戦してきた。以前から「一度、見てみたい」と思っていたが、今回、思いがけずその機会があり、気軽な気持ちで会場を訪れてみたのである。
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⇒ | モノづくり総合力を競う学生フォーミュラ大会とは |
シンクフォーでは、横浜国立大学の学生フォーミュラサークル(横浜国立大学フォーミュラプロジェクト)の足回り部品をサポートさせていただいた。毎月、学生から送られてくるレポートを見ながら、「大変なことをやっているな〜」と思っていた。
彼らは大会が終わると、きちんと報告書を持ってきてくれて、結果がどうであったのかを報告してくれる。筆者自身もオートバイ(自動二輪)での長年のレース経験を持ち、部品加工会社の社長という立場からも、「自分たちの手でゼロから作り上げたマシンでレースに出ること」は大変であるということは分かるものの、この大会について知れば知るほど、正直、「それが一体“どれぐらい”大変なのか」が、容易にイメージできなかった。
実際に大会会場に着くと、今年の暑い夏を象徴するような暑さに加えて、そろいのウェアに身を固めた学生たちの熱気を感じることができた。受付でプレスのビブス(報道関係者の目印となるゼッケン)を受け取り、「まずはどこから見ようか」と迷っていると、そこでボランティアスタッフとして働いていた高野秀幸さんが見どころを案内してくれることになった。
聞けば、高野さん自身も学生時代にフォーミュラ活動をしており、その後自動車メーカーのスズキに就職し毎年有給を使って大会運営を手伝っているそうだ。このような、この大会のことを大事に思うOBの存在も特徴である。
まずはとにかく、マシンが走っているところを見ようと、この大会の動的イベントの花形競技である「エンデュランス/燃費審査」を見た。この競技は広大な舗装された敷地にパイロン(コーン)を置いてコースを作り、1台ずつ約22km走行してタイムを競う。ある意味、学生フォーミュラの中で最も“レースらしい競技”で、マシンの性能とドライバーの腕のトータルでの競争力が問われ、難易度も高い。
コース自体はサーキットというよりはジムカーナに近く、スラロームからクランク、転回、高速コーナーとバリエーションを設けてあり、ドライバー自身のテクニックによってもタイムが相当左右されるコース設定であるといえる。
ジムカーナ:舗装路面上で行う自動車のスラローム競技のこと。
この競技を見て気付いたことがある。敷地が広いとはいえ、基本的には中低速中心の設定であり、エンジンの低速トルクを生かした、低速からの加速を重視した設定のマシンの方が有利ということである。
この日、筆者が見た限りでは、それぞれのチームが使用していたのは、オートバイ用の250ccか400ccクラスの単気筒エンジンか、600ccクラスの4気筒エンジンのいずれかであった。
オートバイのエンジンはもともと高回転高出力の設定である。学生フォーミュラカーの重量は、本来の目的であるオートバイと比較すると2倍以上重い。それで走らせるとなれば、吸排気系および電装系のセッティングを相当煮詰める必要があるだろう。特に600ccクラスのエンジンの場合、高出力を得るために極端なショートストロークになっており、15000rpmを許容するほどの高回転型である。それを学生フォーミュラで使用するには、このエンジンでは本来苦手である低回転域をいかにスムーズに回すかがポイントになると思う。
ショートストローク:エンジンのシリンダ内を上下するピストンのストローク(可動範囲)が短い仕様であること。
実際に走行していたあるチームは初速の乗りが悪く、エンジン回転の上がるストレート後半で加速が強くなることから、コーナーにアプローチする際のブレーキングが安定せず、高回転故のエンジンブレーキの強さと相まって、とてもドライビングしにくそうだった。対して単気筒組はエンジン音の盛り上がりと加速が比例しており、低速コーナーを軽快に走る姿が印象的であり、アクセルオン時のトラクションの掛かり具合もよいことが、ハンドリングに好影響を与えていることがうかがえた。
トラクション:タイヤが駆動する力を走行路面に伝える能力、摩擦力のこと。
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