「戦略と戦術の統合マネジメントシステム」において、戦略と戦術のモニタリング、学習および見直しを行う役割として、次の会議体が用意されています。
会議体 | 戦術 | 戦略 | |
---|---|---|---|
業務レビュー会議 | 戦略検討会議 | 戦略の検証と改造の会議 | |
ステップ | 戦術実行のモニタリング | 戦略のモニタリングと学習 | 戦略の検証と改造 |
レビュー・ポイント | 業務はコントロールされているか? | 戦略をうまく実行しているか? | 戦略は機能しているか? |
目的 | 短期的な問題への対応、継続的改善 | 戦略の微調整 | 戦略の改善もしくは転換・戦略計画の策定・アクションプランや戦略施策の承認 |
頻度 | 月次 | 四半期 | 年次 |
代表的な活動 | S&OP | 戦略マップ/BSC | |
S&OPは、短期の業績、業績評価、当面の課題解決といった、戦術的な意思決定を行う「業務レビュー会議」の役割を果たします。
S&OPの「業務レビュー会議」では、「戦略検討会議」や「戦略の検証と改造の会議」との間で、次の連携を図ります。
他の2つの会議体と同様に「業務レビュー会議」についても、経営トップが戦術的な意思決定に携わることになります。このため、経営トップの関与する時間を最低限に抑えることが重要です。S&OPでは、経営陣の負荷を抑えながら効果的な意思決定を行えるようプロセスが工夫されています。
BSCでは、戦略目的の達成状況や、戦略施策の効果を定量的に把握するために、KPI(重要業績評価指標)を設定しています。
しかしながらBSCでは、戦略実現に向けた革新的な取組みを中心にKPIを設定しているため、必ずしも日常の業務活動を網羅的にモニタリングすることはできません。
そこで、BSCのKPIを補完するものとして、S&OPでも評価指標を設定し、生産、販売に関する実行状況全般をモニタリングできるようにしています。
以下にS&OPに関する評価指標の代表例を示します。
S&OPプロセス | S&OPの評価指標(例) |
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新規アクティビティ・マネジメント | ・新製品の収益性 ・開発プロジェクトの生産性 ・市場投入期間 |
需要マネジメント | ・販売計画、実績差異が許容誤差以内の製品ファミリー数 ・タイムフェンス内の需要計画変更のあった製品ファミリー数 ・顧客納期順守率 |
供給マネジメント | ・供給計画、実績差異が許容誤差以内の製品ファミリー数 ・タイムフェンス内の供給計画変更のあった製品ファミリー数 ・回転率(Velocity Rate) |
統合された調整活動 | ・受注金額 ・出荷金額 ・在庫金額 ・利益 ・キャッシュフロー |
エグゼクティブ・ビジネス・レビュー | ・事業計画に対する売上高達成率 ・事業計画に対する営業利益達成率 ・事業計画に対するキャッシュフロー達成率 ・事業計画で設定された標準に対する顧客オーダ全ラインアイテム納期順守率 |
表3 S&OPの評価指標(例) |
S&OPの評価指標では、売上高、在庫やコストなどの典型的な財務指標だけでなく、非財務指標として、顧客、業務プロセス、学習と成長の視点に関係した評価指標もあります。
特に、業務プロセスの評価指標である「回転率(Velocity Rate)」とは、「スピード」(単なる速さ)ではなく、「アジリティ」(俊敏さ、変化対応力)を導くための、方向性、付加価値を伴う速さを示します。
「回転率」を評価指標とすることで、販売・生産活動上のボトルネックとなるポイントをモニタリングできます。その結果、経営トップが事業の取り組み状況を効率良く把握できるのです。
戦略や業務上の意思決定を的確に行うためには、その前提として、対象とする事業や業務の情報を正確かつ迅速に把握することが必要です。こうした意思決定を支援するツールとして、「パフォーマンス・ダッシュボード」が用いられます。
一般にパフォーマンス・ダッシュボードは、次の3種類にタイプ分けされます。
タイプ | 業務ダッシュボード | 戦術ダッシュボード | 戦略ダッシュボード |
---|---|---|---|
目的 | コア業務プロセスのモニタリング | 部門のプロセスやプロジェクトのモニタリング/進捗把握 | 戦略目的の実施のモニタリング |
ユーザー | 現場作業者、監督者、スペシャリスト | 管理者、アナリスト | エグゼクティブ、管理者、スタッフ |
対象組織 | 業務レベル | 部門レベル | 全社レベル |
情報のレベル | 詳細 | 詳細/要約 | 詳細/要約 |
更新の頻度 | 日次以内(分から数時間単位) | 月次 | 四半期 |
重点 | 重要なビジネスプロセスや活動に関して、潜在的な問題の発生を知らせる警告を流す | 問題の原因分析のため、複数の視点と詳細さのレベルで、適切かつタイムリーな情報を詳しく調査する | 意思決定の質を向上し、パフォーマンスを最適化することにより、組織を適切な方向に向けてかじ取りする |
表4 パフォーマンス・ダッシュボードの種類(参考:松原恭司郎著 「日本版SOX法徹底解説」を基に作成) |
BSCでは、戦略ダッシュボード、S&OPでは戦術ダッシュボードが利用されます。
こうしたパフォーマンス・ダッシュボードを、目的に応じて使い分けることにより、戦略、戦術から業務まで一連のマネジメントを行うことができます。
また、ERPなどから出力される日常業務のデータを、それぞれのパフォーマンス・ダッシュボードにより可視化することで、戦略と業務との一貫した情報の連携が図れます。
S&OPスプレッドシートでは、報告される製品ファミリーごとに
といった項目を表にまとめて一覧できます。
S&OPスプレッドシートは一見シンプルなレポートですが、エグゼクティブ・ビジネス・レビューで利用されるS&OPの中核的なアウトプットです。また、シンプルが故に経営トップとミドルマネジメントとの間で、意思決定の前提としての仮説や問題点を、短時間に共有できるのです。
S&OPダッシュボードは、戦術実行上のモニタリングをタイムリーかつビジュアルに実現できるようにしたものです。
S&OPスプレッドシートの記載項目を基に、S&OPの評価指標や各種レビューと意思決定を支える情報を把握できるようになっています。
以上、見てきたように、S&OPは、戦略と戦術(業務)とのギャップを埋めるための戦術マネジメントとして有効な手法です。S&OPとBSCとを組み合わせることで、戦略と業務とを統合したマネジメントシステムを構築できます。
BSCを既に導入済みの企業で、同様な悩みを持つ企業があればS&OPの導入は一度検討すべきでしょう。
S&OPの専門組織によるリサーチペーパーを読んだ、O営業事業統括本部長と、S生産計画マネジャーは、自社の状況に思いを巡らせながら、つぶやいた。
事業計画も製販調整もバラバラで当てにならないと思っていたが、S&OPで両方をつなげば、現場へ指示を出すのもずいぶん楽になるし、しっかり販売戦略を練ることもできそうだ。
ただ、S&OPを実施しようとしても、さまざまな部門にも協力してもらわないと難しい………。
手始めに予算部門に話をするとして、S&OPのメリットをどのように伝えれば良いだろうか?
(Oさんの抱える課題はこちらを参照)
S&OPを使用すれば、社長やO営業事業統括本部長も巻き込んで、需給方針を共有する仕組みが作れるだろう。欠品や在庫の懸念も、全社の問題として議論してもらえるので、毎月の気苦労も減りそうだ。
しかし、正しいデータに基づいて計画を立案しなければ、上司への説明ができなくなりそうだ。
(Sさんの抱える課題はこちらを参照)
次回はO営業事業統括本部長のつぶやいていた「S&OP」と「予算管理」の関係について取り上げていきます。お楽しみに!
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