実証実験では低温の熱を利用する技術を2つ盛り込む。
まず、低温排ガスを出力250kWのバイナリー発電設備に通す。約80℃と沸点の低い代替フロンを気化させ、そのときに起こる体積の膨張を利用して、タービンを動かし、発電する仕組みだ。
もう1つは、蓄熱槽を搭載した熱輸送車(トラック)だ。低温の熱を工場30km圏内の需要家に直接輸送する。「4トントラック1台で0.9GJ(ギガジュール)の熱量を輸送できる。これは一般家庭40軒が1日に使う熱量と等しい。一度に運べる熱量が多いため、一般家庭よりも、小さな工場やビルなど業務用としての利用を考えている」(大阪ガス)。実証実験では、トラックを5台程度を利用する予定だ。
このとき、工場内のEMS(Energy Management System)とトラック運行の最適計画演算システムを組み合わせて、エネルギー利用効率を高める。川崎重工業は事業全体の統括の他、バイナリー発電設備の導入を担当し、工場内EMSを構築する。大阪ガスは熱輸送車を導入し、配送する。熱輸送車システムの技術は神鋼環境ソリューションから提供を受ける。
熱の配送には甘味料の一種エリスリトール(C4H10O4)を用いる(図2)。
エリスリトールは果実やワインなどにも含まれている天然の糖アルコールの一種。見た目は白色の粉だ。カロリーがほとんどない上に虫歯の原因にならず、水に溶ける際に吸熱反応を起こすため、清涼感を高めた菓子や歯磨き粉などに食品添加物として使われている。
だが、エリスリトールを選んだ理由は、甘味料として優れているからではない。
エリスリトールは120℃で固体から液体へ融解し、融解熱は340kJ/kgである。融点が高く、融解熱が大きいため200℃以下の未利用排熱を効率良く受け取り、蓄熱できる。蓄熱装置の体積を小さくでき、トラック1台で運ぶ熱量が増える、これがエリスリトールのメリットだ。
エリスリトールを利用した熱輸送の技術開発は10年程度の歴史があるものの、大規模な実証実験は今回が初めである。ごみ焼却場と熱輸送車の組み合わせも、今回初めて実証する。
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