焼却炉は発電所としての機能をもつ都市内の重要なエネルギー拠点だ。焼却炉の欠点は、発電機を動かした後に残る200℃以下の熱をほとんど無駄に捨ててしまうことだ。川崎重工業と大阪ガスが大阪の地方自治体とともに始める取り組みは興味深い。ゴミ焼却場で得た低温の熱を甘味料を用いて需要家まで輸送する実証実験を開始する。
太陽光発電や風力発電以外にも、利用できる新エネルギーがある。燃焼熱だ。
国内で消費するエネルギーのうち、熱エネルギーの占める割合は高い。経済産業省資源エネルギー庁がまとめた「エネルギー白書2010」によれば、オフィスビルのエネルギー消費のうち、熱源が約31%を占める。空調や給湯など熱の形でエネルギーを利用する場合、国内の多くの都市では、ガスや電力を使って水や空気を加熱している。家庭でも状況は同じだ。
照明などとは異なり、熱エネルギーは電力を使わなくても生み出すことができる。電力系統に不安があっても、本来なら、熱の供給には影響しないはずだ。
例えば、欧州や北米などの寒冷地では、建物の地下などで蒸気を作り出し、これをビル内に専用パイプを通して送り込むセントラルヒーティングが広く普及している。各部屋で熱を作り出すよりも効率が高いからだ。複数の建物をまとめたセントラルヒーティングや、地区丸ごとセントラルヒーティングのシステムもある。
しかし、このようなシステムを国内の都市に作り込もうとすると、大規模なパイプラインの敷設など、多大なインフラ設置コストが掛かる。
大阪ガスと大阪市*2)、大阪府、川崎重工業は、大阪市環境局ごみ焼却炉大正工場(大阪市大正区)で生じたごみ焼却熱を「甘味料」に蓄え、熱輸送車で配達するという新しいエネルギー供給システムの開発に乗り出した(図1)。2013年までの3カ年計画で実証実験を進める*3)。インフラ費用を抑えることができ、効率の良い熱利用ができるという。
*2)大阪市は「(仮称)大阪市エネルギービジョン」を2011年9月21日に発表している。創エネや新エネ、蓄エネ、省エネを目指す5つの施策があり、メガソーラーやごみ焼却場の排熱利用、人工光合成(大阪市立大学)、スマートハウスなどに取り組む。
*3)経済産業省の「平成23年度次世代エネルギー技術実証事業」に採択された「ごみ焼却工場等の都市排熱高度活用プロジェクト」として実施する。総事業費は未確定であり、国からの10億円弱の事業予算の補助を見込んでいる。
大正工場はごみ焼却炉(1日当たりの焼却能力300t)を2基備えている。焼却能力は国内最大規模だ。「施設稼働率は71%にのぼる」(大阪市)。現在は、ゴミ焼却時に発生する850〜900℃の燃焼ガスをボイラーに通し、水蒸気を得て発電や暖房、給湯に使っている。ただし、ボイラーがはき出す200℃の「低温」排ガスの熱はほとんど無駄になってしまう。効率のよい利用方法がないからだ。
「今回の新システム開発により、焼却炉の総合エネルギー効率が従来の9%から25%以上に高められる」(川崎重工業)という。200℃以下の低温排熱を利用することで実現する。
それでは200℃以下の排熱をどうやって利用するのだろうか。ここで、甘味料が生きてくる。
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