SAPは、今後はより一層、再生エネルギーを活用するためのスマートグリッド技術に必要な機能の追加を進める。
3月11日に発生した東日本大震災に伴い、全世界的に原子力発電所を新規に設置するのは難しい状況だ。しかしながら、インドや中国といった各国の旺盛なエネルギー需要は変わらない。経済活動を活発に進めていくには、安定した電力供給は不可欠だ。
このジレンマをどう解消するか……。各種ビジネスソリューションを手掛けるSAP ジャパンのサステナビリティ推進室の室長を務める松尾康男氏(図1)は、「再生エネルギーを活用するためのスマートグリッド技術がますます重要になる」と語る。
同社は、スマートグリッド向けソリューション「SAP AMI Integration for Utilities」を、2008年11月から提供してきた(図2)。これまでは、オンデマンドで電力量を検針したり、スマートメーターからデータを統合的に収集し同期させたり、障害などのイベントデータを管理したりと基本的な機能の整備を進めてきた。
今後はより一層、再生エネルギーを活用するためのスマートグリッド技術に必要な機能の追加を進める。2011年5月24日に開催した報道機関向け事業説明会で、スマートグリッド向けソリューションの製品ロードマップを明らかにした。
説明会に登壇した松尾氏は、「東日本大震災に伴って、東京電力管内で実施された計画停電が、日本の電力供給における根本的な問題点を顕在化させた」と語る。当面は、節電や総量規制で、電力不足を乗り切る必要がある。ただ、将来を見通すと、電力供給の在り方そのものにメスを入れる必要があるという指摘だ。
現在、電力の供給と需要は、「同時同量」という考えが前提となっている。すなわち、需要家が必要とするだけの十分な発電設備を電力会社が備え、負荷変動に合わせて電力を安定的に供給するという考えだ。
この現状に対し、松尾氏は異を唱える。「電力需要を『是』もしくは『不可侵』のものと見なし、供給側設備だけで対応するのではなく、需要家側に設置するスマートメーターを活用したエネルギー利用の効率化を進めるべきだ」。例えば、エネルギー消費の見える化によって節電を促したり、電力消費のピークシフトを促す料金体系の導入、さらに直接的な需要制御などだ。
前述の通り、SAP ジャパンはスマートグリッド向けソリューション、SAP AMI Integration for Utilitiesを、2008年11月より提供してきた。このソリューションは、電子メーターやスマートメーターやで収集したデータを管理する「エネルギーデータ管理」や「検針」、「料金計算」、「請求」、「回収・未収金管理」、「顧客サービス・マーケティング」、「設備管理」といった複数のシステムを統合したものである。2011年5月時点で、全世界で2600社の採用実績がある(料金計算の部分に限ると、全世界で600社)。
これまでも機能強化を続けてきたが、今後はインメモリの技術を活用したデータ分析や、需要管理に関連した機能の強化を進める(図3)。
まず2011年中に、インメモリ技術を活用した分析機能を強化した製品を提供する。例えば、消費電力データを統計的に分析することで、需要家属性の分類やベンチマーキングを実施し、各種サービスにつなげられるようにしたり、顧客向けオンラインサービスの拡充したり、地理情報システム(GIS)とエネルギー消費をマッチングさせるといった取り組みを進める。
2012年には、配電網の分析機能や需要家の管理機能(デマンドサイドマネジメント)の追加、2013年には電気自動車をスマートグリッドに取り込むための機能や、需要予測/制御のための機能を追加する予定である。
同社が重要視しているのは、いかに大量のデータをうまく処理するかという点のようだ。「スマートグリッドを実現するには、大量データをいかに処理するかを、今のうちから考えておく必要がある。そうしなけえれば、スマートメーターの情報をいざ使おうとしても、使えないという状況になってしまうだろう」(松尾氏)。
この他、説明会では海外の実証実験の状況も紹介された。例えばドイツでは、政府と6地域で「E-Energy」と呼ぶプロジェクトを進めている他、7つの電気自動車関連のプロジェクトが進んでいる。松尾氏は、海外の実証実験の状況について、「スピードの早さを感じる」と語った。2008年に開始したE-Energyプロジェクトは、現在、実証実験の検証の段階で、2012年には検証結果をまとめる段階に入るのだという。
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