「フル稼働」の呪縛にかかっていないか?時間と闘え! 納期遵守の工場運営術(1)(1/3 ページ)

多品種少量生産化、短納期化など、各種製造系企業に突き付けられる要求は大きく変化しつつある。旧来からの経験則による管理手法では対処し切れないさまざまな課題に対して、どのように挑むべきか、工場運営の効率化、利益創出のための管理手法を紹介していく。

» 2009年12月18日 12時36分 公開
[浦野幹夫/フレクシェ,@IT MONOist]

世界が大きく変わるのなら工場運営も大きく変わらなくてはいけない

 周知のごとく、昨今の世界的な金融崩壊のとばっちりを受けた多くの製造業がいま、悲鳴を上げています。かつては「高利益を確保する」という、ある意味相対的な目標達成のために高い競争力が追求されていましたが、いまや「高い競争力」は会社の存続をかけた絶対的な命題となっているといっても過言ではないでしょう。

 では製造業の競争力は何によって得られるのでしょうか? もちろん製品そのものが優れていることが最重要でしょう。モノづくりの原点はそこにあるのですから。

 しかし、ここ二十余年の間に大きく進行したグローバリゼーションやインターネットの普及の結果、個人や企業は欲しいと思う優れた製品や部品を全国から、あるいは世界中から見つけ出して安価に買い付けることができるようになりました。いまや製品力だけでは不十分であり、短納期、迅速な納期回答などといったサービスの向上、在庫削減によるキャッシュフローの改善による財務体質の強化などが競争力維持の必須条件になっています。また消費者のし好の多様化に伴う多品種少量化と製品ライフサイクルの短縮は、工場運営の根底に揺さぶりを掛けてきています。製造業を取り巻く環境がドラスティックに変化しているのです。

 このような時代の大きな変化に一方的に振り回され続けていては、工場は青息吐息で疲弊してしまうでしょう。むしろ積極的に変化に対応し、先手を打って変革していくことが競争力の獲得につながり、むしろ新しいチャンスをつかむことができるのではないでしょうか? 旧態依然とした近視眼的手法の延長上で工場を運営しながらコツコツと改善し続けるだけで、全体を見渡したうえでの変革をおろそかにしていると、結局は局所解に陥りかねません。時代が大きく変化している以上、それに応じた仕組みを作り上げて運用していかなくてはならないでしょう。

 では何を変革すればいいのでしょうか? 業種によって生産形態や事情はまちまちなのですから、例えば見込み生産から受注生産に切り替えましょう、などといっても無意味です。より普遍性のある提案として本連載で主張しようとしているのは、「時間軸」を重視した工場運営です。

「フル稼働」の呪縛にかかっていないか?

 いまだに多くの工場では「製造リードタイム」、つまり製造に着手してから製品が完成するまでの時間が長くて納期遅れが多発する、という悩みを抱えています。外的変動要因が少ない完全見込生産でもない限り、「製造リードタイム短縮」というお題目は製造業にとって重要なテーマであり、悲願ともいえるものでしょう。製造リードタイムが短くなれば納期遅れは激減し、滞留在庫も減ってキャッシュフローが大きく向上するからです。

 ただしこのような大きなテーマに取り組むためには、現場の視点だけから観察しても問題の本質は見えてこないでしょう。例えば、「機械はフル稼働だし毎日残業して精いっぱい頑張っているのだから、『カイゼン』して製造リードタイムを若干減らせたとしても、ほぼ限界だ!」と直感的に判断してしまうようなことはないでしょうか? 例えば図1(A)のような状況では、第2工程の前に仕掛かり在庫の山があっても、局所的に観察している限りにおいては「仕方のないことだ」と考えてしまうのも無理はありません。

図1 どちらもフル稼働 図1 どちらもフル稼働

 問題の本質を見誤ると、かえって傷口を広げてしまうことがあります。かつては稼働率を上げることが目的化し、そのために当面必要ないものまで作ってためてしまう工場も存在しました(いまも?)。これはナンセンスですね。もちろん「結果的な」フル稼働は歓迎ですが、忙しく稼働しているからといって「うまく製造している」ことにはなりません。図1の(A)(B)はともにフル稼働状態ですが、(B)が滞りなく流れているのに対し、(A)の方は工程間の待ち時間が常に発生して製造リードタイムを無駄に引き延ばしており、仕掛かり在庫がたまった「下手な製造」といえるでしょう。フル稼働は「上手な製造」の十分条件ではないのです。

 多くの工場では「無駄な工程間待ち時間」が製造リードタイムの主犯なのですが、「フル稼働の呪縛(=とにかく休まず精いっぱい働け!)」に支配されては、本質的な問題を見失います。論理的には劇的に改善できる余地がある工場は多いはずであり、工場全体を過去から未来へとわたる時系列上で現象を把握し解きほぐしていけばいいのです。そのための手段の1つが「工程計画の立案」です。

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