「うちの工場はMRPを使っていないから関係ないよ」といわれる方もおられるでしょう。しかし、たとえMRPを使っていなくても、標準リードタイムや負荷計算(あるいは負荷山積み)の考え方の延長で計画立案している場合がほとんどではないでしょうか。
生産計画の結果としての月産量や受注を基に、それぞれの作業をどの日(あるいは週)に実行するかを決めてから負荷をならし、最後に作業順序を決めるといったプロセスを採用する企業は、この類型に当てはまるといえるでしょう。
意外と多くの割合を占める手法が、「勘とルールに従った立案」です(ほかの手法との併用も多い)。過去の経験から得られたノウハウをルールとして体系化し、それに該当しない部分は勘に頼って製造現場への作業指示を作成します。
この手法では「品目Aは月初に、品目Bは月末に集めるといい」とか、「同一カテゴリーの品種を3回以上連続して作らない方がいい」といったような「ルール集」を構築します。
ただ、中には作られた理由が分からないルールが交ざったりするのが厄介です。そのルールを作った人が現役の間はよくとも、世代交代時に形骸化したルールだけが伝承されると応用が利かず、製品構成や工場内のリソースの構成などが変わると対応できない場合も少なくありません。
また、勘に頼る比率が高い場合は、その計画担当者がいなくなると立案業務がストップしてしまいます。いずれもいわゆる「属人化」問題であり、多くの製造業はこれで悩んでいます。
「属人化」とは見方を変えれば個人スキルの集積ですから、それ自体は一概に悪いこととはいい切れませんが、本来、個人のスキルに頼る必要がないことまで個人のスキルに依存してしまうのが問題です。作業の順序を決めることが本当に個人スキルに頼らなくては成立しないようなものなのか、きちんと検討する必要があります。
さらに問題なのは、(MRPでも同様ですが)飛び込みロットや急なトラブルに即座に対処できないことです。波及範囲が大きいような変化に都度対応していては、1日分の計画を1日以内に立案することすらままならなくなってしまい、結局は飛び込みロットを別枠扱いにするなど、現場判断で対応することになり、計画の精度を犠牲にすることになります。その結果、計画担当者が発行した作業指示の実行可能性が損なわれ、ひいては製造現場の作業指示への信頼も損なわれ、秩序も失われるでしょう。計画立案者と現場の間の信頼関係については後ほど改めて触れます。
この手法は大抵は手作業であり、ちょっとした変更が生じてもExcelのような表計算ソフト上で延々とコピー&ペーストを繰り返すことになります。はた目から見ると非生産的で非人間的な作業なのですが、人によってはこの手の単純作業が意外と楽しかったりするので(ソリティアみたいなもの)、なかなか改善されません。
本来、計画担当者は関係各部署との折衝など、もっと高度な業務に取り組むべきであり、経営サイドから見ると大いに無駄であり、とても始末が悪いのです。
つまりこの手法は、変化に対して極めてもろく非効率なのです。
一方で、計画立案しないで「現場任せ」にするという「手法」(?)も存在します。最初から製造現場での自律的な判断に委ねるわけですが、裏を返すとコントロールすることを放棄しているともいえます。単工程(1つの工程で完成品が作られる)であれば有効な方法かもしれませんし、あるいは、毎日同じものを同じペースでただ淡々と作り続ければよい場合も同様でしょう。
しかし、多工程の場合や日々作るものが変わる場合は、それぞれのオーダー(製造ロット)がどこまで進んでいて何がいつ完成するのか、把握も制御もできない状態に陥ってしまうでしょう。
「何がどこまで進んでどこにあるのか分からない」とは、製造業でしばしば聞かれるセリフです。わずかな変化があっという間に混沌(こんとん)を招いてしまうもろい「手法」といえます。また、製造現場では現時点でのそのリソースだけしか意識に入らないため、結局は「部分最適」に陥りやすく、工程間の無駄な待ち時間(=過大な中間在庫)や大幅な納期遅れなどの原因となり、全体として見たときに大きく効率を損なってしまうことも少なくありません。最悪の選択といえます。
もっとも、高名な「かんばん方式」のようにシステマティックな「現場任せ」も存在します。ある程度まとまったロットの限られた品種を繰り返し規則正しく製造するような場合には有用な方法ですが、逆に外的要因の変動が大きい工場では不安があります。
現実には、サプライチェーンの中で優位に立つ側の企業でない限りは変動に振り回されることを前提としなくてはならないでしょうから、効果を得られる企業は限られてしまうでしょう。また導入・運用を始めるに当たっては、製造物に合わせた工程、リソース、タクトタイムの平準化などといった製造現場での改善活動により揺らぎ要因を極力排除することが前提となり、関連工場(サプライヤー)もいや応なく巻き込むことになります。
そもそも「かんばん方式」などは全体的な改善活動を大前提としたものであって、これ自体はパーツにすぎません。これを採用すればうまくやれると判断するのは、アマチュアアスリートが一流のプロスポーツ選手と同じ道具を使うだけで上達すると考えるくらい早計でしょう。本当に上達するためには、プロ選手と同レベルのトレーニングをしなくてはならないというのに。不断の努力が求められるので、高いハードルを覚悟しなくてはなりません。
いずれにせよ、「現場任せ」方式は「現在」という切り口で自律的に管理する仕組みであり、「計画」として過去から未来へとわたる時間軸上で把握・制御したいというニーズは満たしません。製造現場の自律的制御は、やはり何かしらの計画立案手法と併用してこそ十分な成果を得られるものです。
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次回は製造計画立案手法の本命、「生産スケジューリング」とは何かについて具体的に解説します。ご期待ください!
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