現場管理者のためのインダストリアルエンジニアリング磐石なものづくりの創造−IE概論(3)(3/3 ページ)

» 2009年05月29日 00時00分 公開
[福田 祐二/MIC綜合事務所所長,@IT MONOist]
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IEは現場管理者のためのもの

 IEは、科学的管理を基盤として作業者を対象とした管理活動に出発点があったことはいままでお話ししてきたとおりです。すなわち、動作研究、レイアウトなどの直接作業を中心の活動が長く続いてきました。しかし、その後の産業の隆盛、企業の発展、企業競争の激烈化などに対応して、労働力の管理だけでは企業の効率向上への役割を果たすには不十分となり、間接部門の効率化、合理化から組織計画といった分野にまで活動の領域が広がってきました。

 もう1つは、IEは製造工場にとどまらず、ホテル、病院、学校、研究所、官公庁といった全産業のフィールドにおいて活用するようになったことです。このような傾向は、基礎IE活動の現場管理への定着化とともに、システムエンジニアリングの発展に伴い、管理制度の合理的確立という任務のために、今後、ますます発展していくものと考えられます。

 かつての日本は、アメリカに追いつけ、追い越せとばかりに、一生懸命にアメリカに学ぼうとしていた時代がありましたが、最近、韓国の製造業経営者の方々のお話を聞いたり現場見学をさせていただく機会が多くあります。このことを通して感じるのは、韓国が日本に対して、まさしく同様の、追いつけ、追い越せという状況にあるように思われて仕方ありません。

 そのような状況にもかかわらず、昨今の日本の製造現場の管理力の低下がますます加速しているように感じられることがしばしばあります。原因としては、企業の技術伝承の体系が崩れつつあることと、物事を事実やデータに基づいて論理的に考える科学的思考力の低下などが挙げられます。

 日本のものづくりに高い関心を示している中国や韓国にやがては追い越されてしまうのではと、将来を大変危惧(きぐ)しています。中国の企業指導をしている知人も、私と同様の感想を漏らしていました。ものづくりにおける、IEをはじめとする管理技術の重要性をいま一度、再認識して「ものづくりニッポン」の回帰に向けて、よりいっそうの努力をしなければならない時期にきているのではないでしょうか。

アメリカのフォアマンたちの価値観が反映されたIEの考え方

 IEは、もともとアメリカで生まれました。アメリカは、建国以来、人手不足に悩んでおり、広大な国土と無限の資源はいくらでも人を要求しました。ヨーロッパから来た人が、この無限の資源を前に途方に暮れたのが建国時代でした。その環境では、最も少なく貴重な資源は人でした。人という資源は非常に高価なものであり、容易には手に入りません。

 それ故、アメリカではどうやって人を減らすかではなく、手に入れることができた人手を、どううまく活用して目いっぱいに仕事をさせるかということが最大の課題であったわけです。日本のように、人がいつも余っていたという状態とは本質的に相違しています。アメリカにおいてIEが発生し、発展していった背景には、このような必然性があったのです。

 さて、IEという言葉は、現在非常に広範囲に使用されていますが、もともとは、その創始者であるテーラーやギルブレスがそうであったように、フォアマン(欧米において、現場の監督者に相当する職責と権限を与えられている管理者)が自分たちの任務である「いかに人手を有効に活用するか」という問題に対して、これを実現するために自分たちの方法として考案し、進歩していったものです。

 このため、IEの主役はいつもフォアマン自身で、決してスタッフや専門家のための手法ではないのです。ところが、日本ではその導入期の環境や過程から、初めから専門家の技術として扱われ、つい最近までその最も基礎IEとなる現場での定着ということを抜きにして、レベルの高い管理問題にばかり熱中していたきらいがあります。それはそれとして効果があったことは事実ですが、昨今の新しい企業環境の変化は、このような状態に徹底的な改革を求められます。すなわち、まず現場にIEを定着させ、それによって現場の第一線に徹底した科学的管理を確立することが最も大きな経営課題となってきているのです。

経営課題を解決する主体は誰? 対象はなに?

 さて、この経営課題を解決できるのは一体誰なのでしょうか。それは、現場の最先端にいて、毎日、作業者と直に接している現場の管理者自身です。

 製品の原価というものは、材料費、加工費、間接費の3つから構成されています。前述のようなことを考えると、この中で現場の管理者の責任内の項目は、どの項目でしょうか。もちろんそれは加工に要する時間と人数(加工費)です。

 材料費についても責任はあるかもしれませんが、それは、スクラップを少なくするとか、歩留まりを多少上げるといった程度でしょう。これに対して、加工費はどうでしょうか。

 下記に挙げた項目すべてが加工費に関連することです。これこそ現場の管理者本来の使命であり、企業が現場の管理者に期待していることであり、また、現場の管理者にしかできないことなのです。

  • いかにして速く作るか
  • いかにして少ない人数で作るか
  • いかにして動作の「ムダ」を省くか
  • いかにして作業者に手待ちを起こさせないようにするか

 そのためには、作業測定、標準時間といった基礎的IEやその感覚が不可欠であり、アメリカのフォアマン訓練の最も重要な項目が作業測定、標準時間を中心とした基礎的IEであるのは、このためです。

 これらの手法は、現場の管理者が駆使することで初めて有効なものとなります。ですから企業にとって重要なのは、これらを現場の管理者の手に戻すことです。また、現場の管理者も、自らIE手法を手に入れることに努力すべきなのです。

 現場で仕事をしていると、毎日のようにさまざまな問題が発生し、どのように対処すべきかと頭を抱え込んで悩んでしまうことも多いと思いますが、IEをはじめとする「基本」を理解していれば、自信を持って業務を成し遂げることができ、管理者自身の業務効率も向上します。ぜひ、この機会に現IEを学び、強い現場づくりに努めていただきたいと筆者は思います。

◇ ◇ ◇

 以上、3回にわたりIE概論として基本的な考え方について説明してきました。今回でこの連載は最終回ですが、8月からはいよいよIEの各論について解説する連載がスタートします。こちらもぜひ参考にしていただきたいと思います。


筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)


日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。



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