現場管理者のためのインダストリアルエンジニアリング磐石なものづくりの創造−IE概論(3)(2/3 ページ)

» 2009年05月29日 00時00分 公開

楽しくなければ改善じゃない

 毎日同じことを繰り返しやっていたのでは、成長していくことは難しいのではないでしょうか。人はさまざまなことに関心を持ち、失敗しながら学び、自己実現の場を持ち続けていられることが、意欲的な行動となり、それが成長へとつながる機会になっていくのだと思います。

ルーチン作業だけでは……

 日々繰り返し性の強い作業を担当するものづくりの現場で、全員が改善を実践していくということは、日々新たな発見があり人の成長を促していくうえでも効果的な方法といえます。

 しかし、人は楽しいことは続けられますが、苦しいと途中でヤル気がうせてしまいますし、また他人に扱われていることに気付くと怒りを感じるものです。それでは、どのようにすれば皆で、自主的な改善活動を楽しく進めることができるのでしょうか? その1つのヒントとして、芝浦工業大学名誉教授の津村豊治先生は、改善活動を楽しむ方法として、「改善が楽しくなるルール」「心豊かに改善を楽しむ」を提唱されています。筆者の解釈に従い、津村先生の論をかいつまんで紹介します。


注:『絵で見る改善のヒント』津村豊治著、ブレーン・ダイナミックス


津村名誉教授の「改善が楽しくなるルール」

 楽しい改善活動を展開するための必要条件は、改善できる、できないなどと余計なことを考えずに、困っていること、すなわち改善したいことをすべて総ざらいしていくことです。次に望ましい姿を描いて、それを達成するための改善着眼を考えながら具体的な方法を生み出していくことを習慣にしていくことです。

「感情の関所」を理解して捕われないようにしよう

 気分が良い方向に向くとアイデアはいくらでも出てきますが、逆に悪い方向に向くとアイデアなど考える気がなくなってしまいます。感情(気分)や性格に起因して行動に移せなくなるような場合は、行動を阻止する「感情の関所」ができていると考えるべきです。

 「感情の関所」ができている状態を理解し、自分自身はもちろん、周りの人に対しても、この「感情の関所」に捕まらないように行動したいものです。「感情の関所」に捕まってしまったときの症状例は次のようなものです。

  • せっかく浮かんだアイデアを実行に移す勇気がない
  • いままで進んできた方向を変えることができない
  • 失敗をしたり、つまらぬことをするのではないかと心配する
  • 保守的になって、イチかバチかという気持ちになれない
  • 手法にとらわれ過ぎて、原理・原則を見落としてしまう(注)
  • もっと良いものがあるのに、それに気が付かない。など

注:手法にとらわれ過ぎるのも大きな問題だと筆者は考えています。


劣等感に基づく引っ込み思案を捨ててしまおう

 こんなに提案を出したら笑われはしないか、また誰かに反対されるだろう、誰かにイヤな顔をされないだろうかなどと、いつも周囲が気になる人がいます。本人の性格や経験がそうさせるような気がしないでもありませんが、実際は誰かの不用意な言動が基で、劣等感を作り上げてしまう気配が感じられますが、いかがでしょうか。

 せっかくの提案を「実際的でない」「もっといいものがある」「誰かの真似だろう」といった評価でつぶしてしまうのです。花にはあだ花もあります。提案だって中には、そんなものもあるかもしれません。

 しかし、その目的が理にかなっているなら「それは素晴らしい考えだ」と、何をおいても賛意を表したいものです。ヤル気のなさ、無気力感は本人自身のものではなく、欲しくもないのに他人からもらったものという解釈があることも承知しておきましょう。

感情に走って考えが固定化しないように注意しよう

 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということわざがあります。いったん何かを信じてしまうと、それに縛られて思考範囲が狭くなってしまうことがあります。提案が採用されなかったり、反対されたときなど、ゆったりと独り静かに考える習慣を身に付けたいものです。

 また、他人に対して「品質意識がない」などと口にする人は、自分は意識十分で、そうでない人がいるといいたいのでしょうが、このような性悪説は追放して、皆が同じように働き者であるとの性善説に徹したいものです。

自分で自分を縛ってしまわないように、言葉に工夫を加えよう

 「できない」という発言を耳にすることがあります。「こんなことはできないか?」などと聞かれたときなど、「できない」という言葉が口をついて出ます。いままでできなかったことは分かりますが、これから先の予言者になってしまっては、面白くありません。

 いつの間にか自己暗示にかかって自分の言葉に縛られてしまいます。そこで筆者が提案したいのは、「できない」という言葉を「難しい」で代用してみましょう。

 次に、「難しい」だけでは人には伝わりにくいので、「どういうところの何が、どのように難しい」のかで表現してみることにしましょう。

 以上が、津村先生の改善を楽しむための方法です。紙数の関係で、部分的に省略したり、私見を加筆しましたが、楽しく遊び心を持ちながら肩に力を入れないで、楽な気持ちで改善を行っていくことが改善活動を継続していく秘訣ではないかと思います。このことは、現在に至る、私の長年の改善活動を振り返ってみても共感を覚えます。

宝くじと改善活動の違い!?

 改善も一発必中などと何も突っぱらずとも、勝負事は勝ったり負けたりしているうちに、次第に上手になるように、改善活動だって、成功したり失敗したり、あれこれ思考をめぐらしながら進むことそのものが醍醐味(だいごみ)だろうと思います。これこそが遊び心というものです。

 宝くじに当たるのも運ですが、くじを買わない人には当たる道理はありません。改善活動だって、続けていればアッと驚くようなことに当たることもあります。ただ、宝くじと改善活動の違いは、宝くじに当たる確率はいつも同じですが、改善活動は続けていれば当たる確率が次第に高くなってきます。遊びのポイントは……、

「初めから結果が分かっていて、間違いや驚きの可能性もなければ遊びは成立しない」ということです。

  • 遊びは難しいから面白い。やさしい遊びは成り立たない
  • 模倣をするのは、その対象の良さを認めるから(模倣のできない人はニーズもなく、永久に創造もできない人)
  • 遊びでも改善活動でも、楽しく夢があるところには人が集まる
  • 遊びに小さな目標はない

 大きな目標を描いて、発想豊に改善活動を楽しみたいものです。

 筆者は先日、新聞紙を張り合わせた気球を作って、有人飛行に挑戦しようというテレビ番組を見ました。

 かつて誰も挑戦したことのないことですから、結果は誰にも予測できません。この大きな夢に挑戦した人たちは、きっと夢中になり、仕事であることも忘れて、楽しく番組を作り上げたであろうことが容易に想像できました。

 改善活動の中に、このような状況を作り込んでいくことが楽しく改善活動を進めるコツなのではないでしょうか。

 改善の目的が、原価低減や品質向上では、あまり楽しそうにありません。例えば、「楽しく、楽に仕事ができる働きやすい職場づくり」などが目的であれば楽しみながら実行できそうですね。

 人間、目的がハッキリと認識できれば、結構頑張れるものです。皆が本気になれれば、結果は、必ず後からついてきます。要は、改善活動を休むことなく、日々継続していくことが重要です。

◇ ◇ ◇

 ここまでで頭の体操はおしまいです。皆さんのものの考え方、取り組み方の参考になれば幸いです。

 さて、「IE概論」の連載も、今回が最終回となります。IE基礎の総括として、もう少し、IEにまつわる話にお付き合いください。

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