人件費の50%、作業時間の20%が運搬コスト!? レイアウトと運搬を効率よく改善するための分析手法を紹介します
人・設備・モノのムダを見つけて改善する。製造業の原価低減に欠かせない3つの要素のムダを発見するために、インダストリアル・エンジニアリングにおける改善の技術を紹介していく(編集部)
今回は「方法改善の技術」の最終回として、日常最もよく活用され、しかも総合的な方法改善活動である「運搬とレイアウト」の改善について説明したいと思います。
モノを「移動したり」「積んだり」「降ろしたり」することを「マテリアル・ハンドリング(Material Handling、マテハンとも呼ぶ)」といいます。比較的マテリアル・ハンドリングが進んでいる工場でも、人件費の50%、作業時間の20%が運搬に費やされているといわれています。それゆえ、運搬はできる限りモノの仕掛かりや在庫量を最少化したり、経路を簡略にするなどの改善によって、モノの取り扱いの手間を省くように考えなければなりません。
運搬方法を改善することは、単に生産コストを下げるのみならず、空間の効果的利用や作業条件の改善にもつながっていきます。工場や職場の運搬改善の際は、建屋内の諸設備のレイアウトと相互に関連しますので、両面を考慮して改善していくのが望ましいやり方です。
レイアウト改善の理想は、「人」「設備」「モノの動き」の生産要素(生産資源)の相互関係が最も効率的に相乗効果を生み、経済的であるように配置方法を計画し、設置することにあるといえます。
運搬の分析方法は、改善の目的や範囲などによっていろいろな角度から行い、一般の作業研究と同じように運搬活動分析を行い、以下に示す運搬管理上の問題やその程度を把握し、改善案を立案するというのが一般的です。
従来の運搬の考え方は、「ある距離だけモノを移動すること」というように、距離が重視されてきました。このため、運搬の重要な部分であるモノの積み降ろしなどの取り扱いに要する作業が無視され、移動と混同されがちでした。しかし、特に工場内運搬について考えると、距離よりもむしろモノの取り扱いと運搬回数に手間が掛かるものです。この考え方から、運搬の多少については次の「運搬重量比率」が使われる場合が多くあります。
運搬重量比率=運搬延べ重量(重さ×回数)÷製品正味重量
この値は、業種や運搬設備などによって違いますが、普通は100〜200程度です。「運搬重量比率」が大きいことは「運搬回数」が多い、または「乗り換え」が多いことを意味しています。この比率が大きい場合は値を小さくするように改善します。すなわち、運搬回数を少なくすることが運搬改善の重点となります。このことから運搬は次の2つに分けて考える必要があります。
運搬では、ややもすると品物が工程順に移動することだけを問題にしがちですが、実際には、それ以外にも多くの移動作業が行われている場合が多いものです。例えば、作業者が製品を運ぶとすれば、次の5つの移動が考えられます。
この5つの移動のうち「3. 製品を車で移動する」以外の4つの移動については無視されてしまうのが普通です。これを空(カラ)運搬と呼びます。運搬を考える場合、物品の動きだけを追うことを止め、人や車の動きにも注視していく必要があります。
空運搬がどの程度かは、次のような「空運搬係数」を用いるといっそう明確となります。この係数は、理想をいえばゼロになるべきものです。
空運搬係数=(人の移動距離−品物の移動距離)÷品物の移動距離
モノを移動するために、運搬物を持ち上げたりするモノの取り扱い回数は、少ない場合でも移動回数の2倍以上はあるのが普通で、しかも大きな労力を必要としますから、調べてみる必要があります。取り扱いの手数は、モノの置き方によって左右されますが、一般的には盲点となっていて、あまり注目されていないのが実状といえます。
モノの置きやすさ、取りやすさも運搬の改善ポイントです。置き方は次に移動するときに手間が掛からないほどよいことは明らかです。これとは別にモノの移動しやすさを品物の「活性」といいます。また、モノが置かれている状態から移動するのに必要な取り扱いを「手間」といいます。「手間」がどの程度掛かるかについての分析を「活性示数分析」といいます。
「活性」の状態を「図1 活性示数の説明」に記述した5段階に分けて、活性示数という数(ランク)を決めます。この示数は図1のように、モノが置かれた状態から移動するまでに掛かる手間の数を「4」から差し引いたものです。平均活性示数が低いときは、その工程(または職場など)のモノの置き方に問題があると考えて工程分析を行い、置いてある状態の活性示数をすべて求め、平均値を算出して判断の目安とします。
平均活性示数=Σ活性示数÷置いてある場所の数
平均値が2.5以下のときは相当に深刻です。改善すべきことが多いことを示しています。活性指数を用いてモノの動きを工程分析し、グラフ化してみましょう。一例として「図2 活性分析グラフ」のような図を作成してみます。下にくぼむほど手間が多くなっているので、くぼみの個所を対象にして、活性指数を上げていく改善を施していかなければなりません。
狭い範囲の工程だけの分析ではなく、初工程から最終工程までのラインや職場全体を分析することで、プロセス全体の最適化を図ることができます。なお、活性分析グラフには、改善後の活性示数も併記すると分かりやすくなります。
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