空気が流れるとき、超音速の旅客機の翼面でも、台風を受けるビルの壁面でも、扇風機に当たる身体の表面でも、壁面の速度は相対的にゼロです。そして、壁面の近くで流れは急速に変化します。
では、そろそろ説明をターボ機械へ移しましょう。
上の図3.9はターボチャージャなどで利用される遠心インペラの例です。
インペラが回転することで、軸方向から入った羽根で圧縮し、空気を放射状に外側へ出します。ターボチャージャのインペラは直径100mm程度の小さいものですが、毎分10〜20万回転という速さで回転します。
このインペラでも羽根などの壁面は相対的にゼロですが、20mm程度である羽根と羽根の間の空気の速度は100m/s程度になります。従って200mm程度である壁(羽根)と壁(羽根)の間の速度は、ゼロから100m/s、そしてまたゼロへと変化するのです。
ではそこでの速度の変化はどのようになっているのか? それを表したのが次の図3.10です。
この図は、遠心インペラでのCFDによる計算結果を円周方向に平均化して子午面で表示したもので、グラフはそのインペラの出口での翼高さ方向の速度です。この図から、速度は壁の付近(青破線の部分)で急速に上昇していることが分かります。
自然界の風で例えると、台風の中で立っているとき、強風で足をあおられそうになりますが、実際、地面は止まっています。地面の速度はゼロですが、強風は全身に当たっているように感じます。つまり、地面から風の速度は急上昇しているのです。厳密には、足首に当たる風と頭に当たる風の速度は違うのです。
この速度が急速に変化している範囲が、前ページで説明した境界層になり、つまりCFDではこの境界層を精度よく予測することが非常に重要です。
では、精度よくとらえるにはどうすればいいのでしょうか。これは写真のモザイク処理に似ています。空をバックにした樹木の写真があるとします。粗いモザイクでも空は大体分かりますが、樹木の部分は枝や葉があり、細かいモザイクでやっと分かるようになります。これは、樹木の部分では狭い部分で色が急激に変化しているからです。
流れの境界層で、この変化の激しい部分をどうやって精度よくとらえるか? それはメッシュを高い密度で配置することで実現できます。ただし、境界層以外の部分でもメッシュを細かく配置すれば全体の流れを高精度にとらえることはできるのですが、先に説明したようにメッシュの格子点が膨大な数になり、CFDの解析にも膨大な時間が必要になります。このため、比較的変化の小さい部分には粗いメッシュを配置します。ただし、急激に格子の間隔が変化することが好ましくないことは先の木に当たる風の例でのとおりです。
また、境界層を精度よくとらえるためには、メッシュの品質も高くなければなりません。特に、メッシュにひずみがなく直方体に近いほど、つまり壁とメッシュのラインが90度に近いことが重要になります。これを境界層での「壁面直交性」といいます。
以上を踏まえて、実際の遠心インペラでのCFDで使用するメッシュの例を見てみましょう(図3.11)。
図3.11の左図は、翼面とハブ面のメッシュを表示したものですが、この図では黒のメッシュラインが全体を覆っているためよく分かりませんが、翼の先端部分を拡大した右図で見ると、表面の4角形がぎっしりと詰まっていることが分かります。
少し粗いメッシュでもう一度見てみましょう。メッシュは、翼と翼の間において、壁付近では間隔が狭くなり、中間部ではやや広くなっています(図3.12)。
また、この例では翼側のメッシュラインは放射状に伸び、壁側のメッシュラインはほぼ直角になっていることが分かります。
このようなメッシュを使ったシミュレーションの結果がどのようになるのか、またはどのような複雑な流れで重要になるのかは、次回以降の計算とポスト処理に関する解説をご覧ください。
最後にメッシュの規模について触れておきます。
ここまでに、メッシュの格子点が多いと計算に時間がかかることを説明しましたが、同時にメモリも多く消費し、データを保存するハードディスクの容量も多く必要になります。
ただし、最近ではパソコンのスピードも上がり、メモリもハードディスクも安くなり、さらにはPCやCPUを数多く使用することにより、大規模な計算が可能になってきました。
20年ほど前、つまり日本のパソコンは「PC-9800」シリーズ、いわゆる「98」が主流だったころには、CFDでの格子点が100万を超えることは夢のような世界でした。いまでは、いわゆるネットブックでも、少々無理をすれば計算できます。このため、ターボ機械のCFDでは、メッシュを細かく切ることにより流れの挙動を詳細にとらえることができ、ジェットエンジンや発電用のガスタービン、蒸気タービンなどの全翼列を一度にまとめて解析する、さらには翼以外の部分を含めた漏れ流れまでがCFDで分かるほど、ハードウェアは高速・高性能になり、値段も安くなりました。
さらには、これまで時間変化を無視して流れ場が一定であるという仮定の下で計算される「定常計算」から、時間変化を考慮した「非定常計算」によるターボ機械の性能評価が一般の設計でも可能になり始めています。ひいては、ファンの回転による風切り音までシミュレーションできるほどです(=「流体音響連成解析」)。
しかし、むやみにシミュレーションを大規模化しても意味がありません。大事なのは、シミュレーションでどのような結果を導き、どう評価するか、そしてどのように性能改善へ反映するかなのです。
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次回は、メッシュを使って実際にどのような計算を実行するかについて解説したいと思います。(次回に続く)
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