薄肉化ができれば、次のステップは、コア側に内部構造を構成するボスやリブのモデリングになります。
コア側における内部構造の形状は、部品内部に組み立てる部品の取り付けや補強などの役割を果たすため、設計意図を十分にくみ取ってモデリングしていくことが重要となります。
設計的な問題が見つかれば、部品の位置や取り付け方を変更し、それに対応する部品のモデリングも迅速に行うことが求められます。そのため、部分的な形状を短時間で作成することだけを考えてモデリングするのではなく、モデリングする形状の設計基準を意識したモデリングを心掛ける必要性があります。
例えば、図7のようなボスを作成する場合、ボスの断面形状をスケッチし、押し出して形状を作成することになりますが、安易に薄肉形状の内側の面(コア面)を断面形状のスケッチ面に選定してはいけません。
内部構成部品との合わせ面が基準となるので、必ずその基準面をスケッチ面とし、断面形状を作成することが必要です。そうしておくことで、部品が移動した際、「何mm移動したからボスの高さを何mm移動しなくてはいけない」ということがすぐに把握できます。
ボスとリブのモデリング手順を間違えると、現実に金型では作れない形状をモデリングしてしまうことがあります。
以下の図8のように作成すると、最後の貫通穴の1コマンドを忘れてしまった場合には、実際には作成不能な形状が残ってしまいます。
「ボス→ボス穴カット→リブ→リブカット」
単に3次元モデルを見ているだけでは問題に気付かない場合もあります。このようなミスを撲滅するには以下の図9のような作成手順にて統一しておくことが必要です。
「ボス→リブ→ボス穴を貫通させ、リブカット」
また、3次元モデルだけでは内部に空間ができているなどのモデリング不具合に気が付かない場合も多いため、2次元断面を作成して確認することも重要な作業となります。
デザインによって、薄肉化の形状が決まり、ボスやリブなどの内部形状は、製品の構造設計などによって決まります。往々にして設計途中にデザイン変更が発生したり、デザインが固まらない段階においても、内部の設計を進めていかなくては日程が守れないという事態は発生します。
従って、薄肉化のモデリング工程と、ボスリブなどの内部形状のモデリング工程がお互いに独立して進められることが理想です。完全に独立になることはできませんが、次に紹介するような工夫をすることで、ある程度可能になります。
通常は、薄肉化したモデルに対して、ボス・リブなどの内部形状を作りこんでいくのですが、下図のように最初から(薄肉モデル)と(内部形状モデル)を別の部品として分けてモデリングを進めるという方法があります(図10)。
モデリング初期の段階では、大まかな外観形状があれば、コア部品を作成しながら内部構成部品がレイアウトできるかどうか確認できます。
設計とモデリングが進むにつれ形状が複雑になっていきますので、CADデータも容量が大きくなり、CADソフトの反応も徐々に鈍っていくのが通常です。しかし、薄肉部品と内部形状部品を分けておくことによりデータ容量をコンパクトにすることができ、ソフトの反応が遅くなるのを避けることができます。
最終的には、1つの部品に合体させる必要がありますが、以下のような手順で行います(図11)。
別々の部品でモデリングを進め、部品全体の確認はアセンブリを使用し確認を行う。このとき、内部形状部品(コア部品)は薄肉部品(キャビティ部品)から十分はみ出した形状にしておく
形状が出来上がってきたら、コア側の形状データに薄肉部品の内側のサーフェス(コアサーフェス)を取り込む。取り込んだサーフェスから使用不要な部分をカットする
薄肉部品と内部形状部品を取り込み合体させる
CADによっては、この操作で使用するコマンドが違いますが、基本的な考え方は同じです。(次回に続く)
佐藤 正(さとう ただし)
1971年埼玉県生まれ。1994年大手金型メーカーに入社。主に家電・自動車部品の金型設計に携わる。アメリカ工場における量産金型立ち上げ、顧客の製品設計支援などを経験した後、2003年ウィッツェルに参画。自動車部品・家電製品など多岐にわたる製品のコストダウンや品質改善のために、後工程(金型製作・射出成形)を考慮した3次元設計&モデリングの指導を行う。
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