前述のとおり、コアはエジェクターピンで強制的に突き出しますので、キャビティよりも浅い角度(0.5度以上)に設定することができます。
しかしながら、コア側には、ボスやリブなどの構造物が多くなりますので、全体的に抜き勾配があまりに小さい傾向だと、以下のような成形不良が発生します。
逆に離型不良を気にし過ぎてリブの角度を大きく取ってしまうと、リブの根元が深くなってしまい部品表面にヒケ(図2)が発生します(ヒケとは?)。
部品形状やそれに使用する樹脂の種類によって差異は生まれますが、一般的に、射出成形でヒケを出しづらくする体裁肉厚とコア形状の肉厚のバランスは図3のようになります。
第1回で紹介したように、肉厚均一で、キャビティにもコアにも抜き勾配のある薄肉形状を作成するにはシェルコマンドを使うことが最も効率的です。今回紹介した金型の構造とキャビティとコアの違いを考慮しながら、プラスチック部品をモデリングする際にシェルコマンドを上手に使うテクニックを紹介したいと思います。
シェルコマンドは、部品のある面を選択し、その面以外のサーフェス(キャビティが形作るサーフェス)を、指定した肉厚分をオフセットさせ、そのオフセットしたサーフェスを使って内部をカットするという働きをします。
最も理想的なモデリングは、外観面のキャビティ側をすべてモデリングした後にシェルコマンド1回で薄肉の形状を完成させることです。しかしながら、外観面(キャビティ面)のすべての詳細な形状を作成してしまうと、シェルコマンドが働かない(=キャビティサーフェスがオフセットできない)という事態が発生することがほとんどです。
シェルコマンド抜きにコア側の形状をモデリングするのは、非常に手間の掛かる作業となります。つまり「シェルコマンドをどう使うか」ということがモデリング効率を上げるうえで非常に重要というわけです。
シェルコマンドが働かない代表的な例として、以下の3種類があります。
ここではそれぞれ事例と問題の回避方法を紹介します。
複雑なサーフェスを作成し、オフセットできなくなってしまうケースです。最も簡単な1つの解決策としては、シェルの掛けられない面以外の形状をモデリングした後に、シェルコマンドで薄肉化してしまいます(図4)。
その後、複雑なキャビティ側のサーフェスを使って、キャビティ側に肉盛りをします。次に、キャビティ側の複雑なサーフェスはオフセットできないため、コア側のサーフェスを別に作成します。この場合、オフセットサーフェスによる形状ではないため、肉厚が均一になるようなコア側のサーフェスを作るように注意が必要です。
根本対策として、シェルコマンドが働くようにするために、オフセットできないサーフェスを定義しなおしてオフセットできるようなサーフェスに変えます。
サーフェスの曲率が急激に変化する部分があると、CADだとオフセット処理できないことがあります。よって、そのサーフェスを定義しなおすことで、シェルコマンドが働くようになります。CADの曲率をチェックする機能を使って、曲率の変化の大きい部分を見つけ出し、そのサーフェスの定義を変えることができれば、問題は解決します。
しかし現実的には、外観面のサーフェスはデザイナーによって定義されており、変更ができない場合も多いと思います。部分的な変更が認められるのであれば、曲率の変化が急激な部分のみを切り取り、部分的に再度サーフェスを作成し、穴を埋めることで、全体のサーフェスがオフセット可能になることも多くあります。いずれの場合にも、デザイナーとの合意に基づく必要があると思います。
図5のような細かな形状が近接する場合、コア側で一定肉厚では形状同士が重なり合ってしまうため、オフセット面が定義できずに、シェルコマンドが働きません。 この場合には、溝形状以外の必要な部分を作り込んでしまいシェルコマンドを使った後にコア側の肉を足し、その後キャビティ側の詳細な形状をモデリングします。
肉厚よりも小さな角R(ラウンド)を付けると、角Rのオフセットができないため、シェルコマンドが働かないことがあります(CADによっては条件に合わせコア側にラウンドを設けず作成されるケースもあります)。このような事態を回避するには、肉厚よりも小さい角Rは、シェルコマンドを使い薄肉化した後に、ラウンドを作成するような手順に統一することが必要です。
シェルコマンドが働かない場合、キャビティサーフェスがオフセットできないことが原因であり、上記の3つの理由のいずれかに当てはまる場合がほとんどということをよく理解してください。それらの回避策を知っていれば、シェルコマンドを上手に使ってプラスチック部品のモデリングを効率的に進めることができます。
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