これまでこの連載では、2005年5月に公開されたETSSの内容を中心に解説しました。しかし、ETSSは発展の途上にあります。これまでどおりの委員会による審議だけではなく、アンケートの実施や企業に実験的に導入してもらうなどして、各種情報や意見を集めてETSSの本来の目的である「人材育成」「人材活用」の実践的で使い勝手のよい指標となるよう改善を進めています。
この連載の最後に、2006年版ETSSにおけるバージョンアップの概要を紹介します。
スキル基準は、2005年に公開されたVersion 1.0 に対して、定義の表現方法などを中心にブラッシュアップを実施し、Version 1.1にバージョンアップしました。
まず、スキル基準を評価する際のレベル定義の文言を改善しました。例えば、レベル3の定義は「下位の技術者の指導ができる」としていました(Version 1.0)。これは、当初「該当スキルを体系化し伝承・伝達することができる」ということで検討されたのですが、実際は、「指導」や「教育」「コーチング」のような能力を持ったレベルという誤解をされることがありました。ほかのレベルの定義文言についても同様に、本来の定義内容を正確に伝え、誤解が少なくなるように表現を洗練しました。
また、技術要素スキルカテゴリの「作れるスキル」と「使えるスキル」の区別がつきにくいとの意見を受けました。これらについても表現の工夫を行うとともに、ほかのスキルカテゴリ(開発技術・管理技術)についても、併せて体系的な整理を実施しています。
2005年の公開ではDraftとしていたキャリア基準をVersion 1.0として公開します。
キャリア基準のVersion 1.0では、アンケートや各方面へのヒアリングなどの調査結果を基に、職種名称の定義を一部更新しました。例えば2005年版には「サポートエンジニア」という職種がありました。これは当初、大規模化が進む組み込み開発を「ソフトウェア工学的なアプローチでリードしていく職種」としていましたが、結果として「サポート=支援(従属的な役割)」といったイメージとなってしまいました。そのほかの職種名称も同様に、現実的で誤解が生じにくいようにするための検討を行っています。
キャリア基準Version 1.0では、職種ごとに設定されたキャリアレベルを「ビジネスやプロフェッショナルとしての価値創出に応じたレベル」と定義しています。これを実現するためには、ETSSのスキル基準で定義した技術スキル以外のスキルが必要になります。例えば、「コミュニケーション」「ネゴシエーション」「リーダーシップ」「問題解決」などのパーソナルスキルや「経営」「会計」「マーケティング」「人材資源管理」などのビジネススキルが挙げられます。キャリア基準Version 1.0では、職種が受け持つ責任や役割を果たすうえで必要となるスキル項目を定義しています。
職種のキャリアレベルごとに、その役割や責任を果たすために必要となるスキルや知識の種類や習得の度合い(レベル)は異なります。キャリア基準Version 1.0では、このようなスキルや技術の分布特性を職種とレベル(エントリ、ミドル、ハイ)ごとに提示しました。これらの分布特性は、ETSSスキル基準で定義された3つの技術スキル(「技術要素」「開発技術」「管理技術」)と、前述したキャリア基準で提示したスキル(「パーソナルスキル」「ビジネススキル」)ごとに、該当職種のレベルで必要とされるスキルレベルを定義します。
2005年版では未経験者向けカリキュラムを「教育カリキュラム」(Draft)として公開しました。2006年版では、組み込み分野の開発者の人材育成に関する定義を「教育研修基準」としてVersion 1.0を公開します。
教育研修基準では、教育カリキュラムの仕組みや用語を教育カリキュラムフレームワークで定義します。教育カリキュラムフレームワークでは、ETSSのスキル基準やキャリア基準との連携をどのように行うかを整理しました。スキル基準やキャリア基準と連携することにより、スキルアップやキャリアアップを目的とした教育カリキュラムが実現できるものと期待しています。この教育カリキュラムフレームワークで定義された用語や構造を用いて、2005年版で公開した未経験者向けカリキュラムのドキュメントフォーマットも変更しています。
教育研修基準で提示した教育カリキュラムや教育カリキュラムフレームワークを活用してもらうため、手順についても検討を行いました。教育カリキュラムを適切に開発・運用するための手順や観点について、ドキュメントにまとめ公開していきます。
これまで、4回にわたってETSSの概要を解説しました。ETSSの目的はあくまでも、組み込み分野におけるソフトウェア開発力強化を実現するための「人材育成」や「人材活用」の有効な指標として活用されることです。
これからもさまざまな意見や導入事例からのフィードバックなどを基に、ETSS自体の構造や定義を洗練し、さらに「使える」指標としてETSSを進化させていきたいと考えています。
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