ASEANのサーキュラーエコノミー実現が国内製造業にとっても重要な理由:脱炭素
PwC Japanは「サーキュラーエコノミーに関する調査レポート2024」などの説明会を開催した。同レポートではASEAN地域におけるサーキュラーエコノミーの現状や必要性などを紹介している。
PwC Japanは2024年2月9日、同年1月に発行した「サーキュラーエコノミーに関する調査レポート2024」などの説明会を開催した。同レポートではASEAN地域を対象にして、サーキュラーエコノミーの現状や必要性などを紹介している。
海洋プラスチックの約55%がASEANから流出と推定
ASEAN地域では経済成長に伴う人口や資源利用量の増加が見込まれる一方で、廃棄物の量も増えると予測されている。さらに同地域は先進国の製造業が多く工場を建設している上、最終処理廃棄物を欧州や日本、米国、英国などから多く輸入している。一方で、資源再利用の取り組みは十分には進んでおらず、同地域における環境汚染の一因ともなっている。
PwC JapanがまとめたASEAN地域における鉱物やプラスチックといった資源の循環性のデータを見ると、同地域では2000年から2019年までの20年間で、鉱物資源の消費量が年間約2.5%増加している。電子機器などの廃棄物(E-waste)の1人当たり排出量は2015年から2019年で年平均で約4%増加しており、使用済み自動車(ELV)の発生台数は2050年までに年間で約6%増えるという予測もある。
加えて、世界全体での海洋プラスチックの年間排出量は、その約55%がASEANからのものだと推定されている。中でもフィリピンからの流出量は約36%と、大きな割合を占めている。さらにASEAN地域では無許可の不法リサイクル事業が問題化しており、適切な資源回収がなされないことで有害物質によって環境汚染がさらに広がることが懸念されている。
市場ドリブンのサーキュラーエコノミー実現を
ASEANは日本企業にとって製品輸出先として有力な市場であるが、原材料や製品を調達するサプライチェーンの観点でも高い重要性を持つ。ASEAN地域のサーキュラーエコノミーの構築は、国内製造業が将来にわたり安定的な調達を実現する上で大切だ。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナーの磯貝友紀氏は「ASEANは国内企業の製造拠点として重要だが、今後日本が国内の製造業を維持していくためには、サプライチェーンをもう一度作り直す必要がある」と指摘する。PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス ディレクターの甲賀大吾氏も「ASEANは世界の製造業の拠点を置くグローバルネットワークであり、他方では廃棄物を輸入するという役割を担っている。資源の流れのループを閉じることが、グローバル社会にとっても重要になる」と説明する。
また磯貝氏は、国内企業がASEANに先駆けてサステナビリティ関連製品の市場を構築することの重要性も指摘した。「プラスチック素材を例に挙げると、数年前まではペットボトルの循環はコスト負担が大きすぎて困難だという認識が一般的だった。その中で一部の消費財メーカーが『多少高くても、大事な取り組みだから』とリスクを受け入れて購入し始めた。すると設備投資が加速し、コスト低下の流れが生まれた。ペットボトル市場のように、国内企業がASEANの企業に先駆けて、市場ドリブンでサーキュラーエコノミーのスケールアップとコストダウンに取り組むことも大事だ」(磯貝氏)。
アジアと欧米間の理解と議論の促進を
現状、カーボンニュートラルを巡るルールメイキングは欧州が主導する格好となっているが、これに対して国内企業からは「アジアは今後大きな経済成長が期待される一方で、再生可能エネルギーのリソースが少ない」「アジアは世界の製造工場であり、農作物を輸出するなど消費を支えている」など、アジア地域の“特殊性”が加味されていないといった声がある。
しかし、磯貝氏は「欧米のステークホルダーの声として、日本企業は『アジアは特殊だ』と言うが、ではどうしたいのかが伝わってこない』という意見も聞く」と語った。こうした立場による認識のギャップを埋めるため、PwC Japanはサステナビリティ関連ビジネスにおいて日本と世界をつなぐ組織として「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム」を立ち上げた。現時点ではJERAや帝人、富士通、本田技研工業、三菱重工業、味の素など13社が参加している。サステナビリティ関連ビジネスの議論促進や、情報発信強化を目指す。
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