JSRや出光はマテリアルズインフォマティクスのプロ人材をどのように育成したのか:マテリアルズインフォマティクス最前線(4)(3/3 ページ)
本連載ではマテリアルズインフォマティクスに関する最新の取り組みを取り上げる。第4回は、国内化学メーカー向けにマテリアルズインフォマティクスのコンサルティング実績を積み重ねてきたEnthoughtを紹介する。
JSRや出光興産などのMI人材を育成
MONOist どのような日本企業にMIのコンサルティングを行いましたか。
ハイバー氏 JSR、出光興産、TBMへのコンサルティング事例について紹介しよう。JSRは、当社が初めてMIのコンサルティングを行った日本企業で、2017年頃からMIのコンサルティングを担当している。コンサルティングの当初は、JSRの素材開発チームは十分なデジタルスキルがなかったため、当社のさまざまなプログラムでトレーニングし、共同でソフトウェアの開発を行い、デジタルスキルのレベルを上げ、2022年頃にはチーム内でデジタルリーダーを育成することにも成功した。デジタルリーダーとは、実際の価値あるビジネス上の問題を解決し、多くの異なるユーザーがアクセスできるMIシステムを作成するためにチームを率いることができる個人を指す。
当社のJSRとのパートナーシップに関して一例を挙げると、アプレンティスシッププログラムで6カ月間をかけて素材開発チームの人材を育てるとともに、共同でソフトウェア ツールの設計と開発を行なった。さらに、同チームの新素材開発プロジェクトに当社のテクニカルチームも参画し、素材開発でのMI導入を後押しした。コラボレーションの終了までには、JSRの素材開発チームが主体となってプロジェクトを推進するようになり、当社のテクニカルチームは、サポートを担った。
出光興産は、石油から機能性材料を提供する体制への業態変革の一環として、当社のコンサルティングを受けた。JSRと同様にアプレンティスシッププログラムを受け、出光興産の素材開発における課題解決に向けた作業を行った。当社が、MIやML、AI、Pythonを用いて課題を解決する手法を指導した。われわれは協力してさまざまな材料開発の課題にも取り組んだ。例えば、出光興産の材料開発チームの2名と当社の技術チームの2名が新しい触媒の発見に向けて、データ管理、ML、AIの活用を行った。
両チームの協業によりCO2を吸収する新触媒の開発を加速するML/AIシステムのプロトタイプを構築した。その後、出光興産の素材開発チームが主体となり、これらのプロトタイプを基にシステムを完成させた。システムを用いて、これまでの手法で想定される期間と比較して数カ月早くCO2を吸収する新触媒を開発することに成功したという。
TBMは、石灰石を主原料とした環境配慮素材「LIMEX(ライメックス)」を提供している企業で、使用済みプラスチックなどを原料とした再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」を展開している企業だ。現在、本格的な海外展開を見据えて、LIMEXやCirculeXの地産地消モデルの構築を目指している。LIMEXの主原料となる石灰石やCirculeXの原料となる使用済みプラスチックは、国や地域ごとに性状が異なるため、国内と同様の成形方法では高品質なLIMEXやCirculeXを成形できないとみられている。
解決策として、TBMのMI推進チームは当社のコンサルティングとトレーニングを受けている。これにより、TBMのMI推進チームはPythonやAI、MLなどについて学んだ。現在は、学習したPythonやAI、MLなどのスキルを活用し、レシピとプロセスのさまざまな変数を考慮してLIMEXおよびCirculeXの最適な成形を可能にするシステムを開発している。
MONOist 今後の展開について教えてください。
ハイバー氏 日本ではMIのビジネスが米国と同様に成長している。そして、当社はこうしたイノベーションを求める会社がある国ならどこにでも展開する。例えば、MIに関心がある欧州、中国、韓国、中東への展開が考えられる。加えて、多国籍企業などもターゲットだ。当社は、オースティンだけでなく、英国のケンブリッジやスイスのチューリッヒ、日本の東京にもオフィスがあるため、これらの国を中継地点としてさまざまな国にMIサービスを提供できる。また、MIサービスを提供することに加え、米国におけるMIの最新トレンドなども共有可能なため、それを強みに展開を加速していきたい。
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