本連載では素材メーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第1回では積水化学工業の取り組みを紹介する
近年、製品ニーズの多様化と激しい国際競争の影響で、国内の素材メーカーは、素材製造プロセスの高度化と開発期間の短縮が求められているが、技術者のノウハウに依存したこれまでの手法では対応が難しい状況だ。
解決策の1つとして、新素材開発の速度と精度を向上させるために、マテリアルズインフォマティクス(MI)とプロセスインフォマティクス(PI)を活用する国内素材メーカーが増えつつある。こういった状況を踏まえて、本連載では素材メーカーが注力するMIや最新の取り組みを紹介する。
第1回では、積水化学工業 R&Dセンター 先進技術研究所 情報科学推進センター センター長の日下康成氏と同センター MI推進グループ グループ長の新明健一氏に、MIの導入経緯や課題となった点、解決策、成果、今後の展開などを聞いた。
MONOist MIを導入した経緯について教えてください。
日下康成氏(以下、日下氏) MI導入の大きなきっかけとなったのは、当社を含む国内素材産業の外部環境が近年劇的に変わったことに、危機感を持ったことだ。外部環境に関して、最近は製品のライフサイクル短命化やコモディティ化、資源の制約、地政学的なリスクの問題などで変化が顕著となっている。
例えば、スマートフォンをはじめとするさまざまな製品の新バージョンが短期間で上市され、旧バージョンの市場価値が下がり競争力を失うスピードが早くなっている。加えて、環境問題の影響で従来のように溶剤などを使えなくなっているだけでなく、地政学リスクの影響でレアアースなどの安定的な確保が困難になる可能性もある。
こういった市場環境とユーザーニーズの変化に対応するためには、素材開発自体にイノベーションを起こさなければならない。そこで、一部の社員が、素材産業界での生き残りを賭けて、強みである素材開発力および保有するデータを活用したMIが行える体制をしっかり立ち上げなければならないと考えた。
そして、 当社の高機能プラスチックスカンパニー開発研究所が中核となり、2017年までにMIのプレ技術調査や基本技術の習得を開始した。研究会参加などを経てMI推進の部署であるテクノロジーインキュベーショングループが立ち上がり、MI導入の本格的な検討をスタートさせた。2018年1月には当社のコーポレートセクションでもMIの検討を開始しており、2020年10月には、テクノロジーインキュベーショングループを中核とし、当社のコーポレートのチームと融合する形で情報科学推進センターを設立した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.