MONOist 社内人材の公募や独自の教育、TPFの構築で、優れたデータサイエンティストに育成しているんですね。これまでにどういった成果が得られていますか。
日下氏 既に、MIにより複数の成果が得られているが、今回は2つのケースを紹介する。1つ目はフィルム製品の配合設計の検討速度を4時間にした事例で、従来手法と比べ900倍のスピードで検討できるようにした。
MI適用以前は、ベテランの素材開発者が30万種類を超える材料とプロセス(配合の方法、温度など)の組み合わせの中からパターンを絞った上で検討を行い5カ月かかっていた。そこで、フィルム配合設計に機械学習を適用し、材料とプロセスの組み合わせデータから、その組み合わせで創出される13種類の物性を予測するというMIを行った。これにより900倍に高速化できた。
MI適用によるフィルム配合設計の検討は対象製品により1時間や6時間だったり完了時間に違いはあるが、いずれもこれまでの手法と比べてかなり早い。
2つ目は電子材料用テープの接着剤開発で、MI適用以前は、化合物合成→物性計測→選別を繰り返し、新規接着成分の探索時間が1カ月かかっていた。解決策として、配合設計に機械学習を適用し、化学構造から直接物性を予測するというMIを行い、新規接着成分の探索時間を16時間に短縮した。これは従来手法と比べ45倍速となる。
この2つのケースでは、これまでベテランの素材開発者が行っていた、多くの組み合わせの中からパターンを絞り込むという作業を減らした。イノベーションにつながるパターンの見落としの削減が期待できる。
MONOist 情報科学推進センターの設立から短期間で良好な成果が得られているんですね。要因は何でしょうか。
日下氏 情報科学推進センターの体制とKPI(重要業績評価指標)が関係している。体制に関して、情報科学推進センターは、材料の物性や構造を評価する評価分析部署、シミュレーションデータを実施する計算科学部署、画像データを解析する画像解析部署、そしてインフォマティクス技術を活用するMI推進部署で構成されている。
各部署のデータや公開情報(文献、特許)は集積され、データベース構築や相関解析、多変量解析、変数選択、特徴量創出、深層学習といった解析技術を経て、製品品質の安定化、特許網の構築、新配合予測による開発の迅速化、新物質の発見、メカニズムの解明、自動認識、重要な特徴量の抽出などで役立っている。
さらに、素材開発の経験が豊富な社員がMI技術や情報科学を習得できるようにしているため、これらの「ドメイン知識」を持つ多数の社員が所属している。ドメイン知識を備えることで、素材を評価/分析したデータをスムーズに理解でき、関連部署とのコミュニケーションとさまざまな情報の連携を迅速に行えている。
オープンイノベーションも積極的に展開している。現在、日立製作所と明治大学をはじめとする数十社の企業や研究機関と共同研究などの共創を実施中だ。
KPIでは、当社が展開する事業への貢献を最重要と考えているため、MIを適用する対象を決める際にはその事業規模やMIによる貢献度を考慮する。成果は金額ベースで評価している。例えば、MIにより社員の固定費を数分の1に減らしたことや、新製品を上市したことの効果を金額で表している。こうすることで、会社としても安心してMIに投資できるようになるだろう。2023年度も成果は拡大する見通しで、情報科学推進センターの経費を上回ると考えている。
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