本連載ではさまざまなメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第2回では住友ゴムの取り組みを紹介する。
近年、製品ニーズの多様化と激しい国際競争の影響によって、国内製造業における素材/化学分野での製造プロセスの高度化と開発期間の短縮が求められている。しかし、研究者や技術者のノウハウに依存したこれまでの手法では対応が難しい状況だ。解決策の1つとして、材料開発の速度と精度を向上させるために、マテリアルズインフォマティクス(MI)やプロセスインフォマティクス(PI)を活用する企業が増えつつある。そこで本連載では、国内製造業におけるMIやPIの最新の取り組みを紹介する。
第2回で取り上げるのは、タイヤ大手の住友ゴム工業だ。同社 材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏、研究開発本部 分析センター長の岸本浩通氏、サステナビリティ経営推進本部長 兼 サーキュラーエコノミー推進部長の石野崇氏の3氏に、MIの導入経緯や取り組み、環境配慮、今後の展開などについて聞いた。
MONOist MIを導入した経緯について教えてください。
上坂憲市氏(以下、上坂氏) 当社の材料開発本部は1990年後半まで、ゴムのレシピ(材料表)を紙で作成し、そのレシピに従ってゴムの試作品を作り、物性を計測するというサイクルで、自動車タイヤ用ゴムの開発を行っていた。しかし、紙でゴムのレシピや物性の計測値を記録していたため情報共有に問題があり、部内の複数の社員が同じようなレシピでゴムを作り、物性を測るというケースもあった。解決策として、1998年ごろから、過去に作成した試作品のレシピと物性の計測情報をデジタルデータ化し、データベースに蓄積して部内のメンバーと共有した。これらのデジタルデータはレシピに記載された材料の量や物性の計測情報の数値を記録したシンプルなものだ。これが材料開発でデータを活用するきっかけだった。
これらのデジタルデータを蓄積していき、過去のレシピデータを市販のシミュレーションソフトウェアに取り込んだ結果、ゴム試作品の物性をシミュレートできるようになった。しかし、その手法だと精度が悪く正確に試作品の物性を再現できなかった。
岸本浩通氏(以下、岸本氏) 加えて、当時はコンピュータの性能が低く、シミュレーションソフトウェアのスペックに対応できず、データベースに蓄積したレシピの情報を高精度に処理できなかった。だが、近年はコンピュータの性能が向上し、身近にビッグデータを扱える環境が整った。そこで、蓄積したこれらのデジタルデータを活用する技術として、2011年に新材料開発技術「4D NANO DESIGN」を、2019年にAI(人工知能)技術「Tyre Leap AI Analysis」を開発した。それだけでなく、2022年にはトヨタ自動車のクラウド材料解析プラットフォームサービス「WAVEBASE」の活用にも踏み切った。
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