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製品化を目指すなら押さえておきたい、優れた技術やアイデアよりも大切なことベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(1)(1/2 ページ)

連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第1回は、ターゲットユーザーをきちんと想定しておくことの重要性について説く。

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はじめに

 筆者は前職のソニーを退職した後に、設計支援の仕事をしようと考えモノづくりベンチャー企業をいくつも訪問して回った。

 素晴らしい技術やアイデアを持ち、モノづくり補助金などの資金援助を受けて製品化を目指す彼らに、試作品を見せてもらい、その先のステップである量産化のお話を聞いてみると、少なからず衝撃を受けることがある。

 それは、「市場でたくさん販売する製品」の設計から大きく懸け離れ、足りていないことがあまりにも多過ぎるからだ。

 筆者は、この状況のままでは多額の資金と多くの時間がムダになってしまうと考え、本連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」をスタートするに至った。

⇒ 連載バックナンバーはこちら

新しい技術や斬新なアイデアを持つ製品に、誰もが価値を感じるのか?

 自社技術を生かしてオリジナル製品を作りたい部品メーカー、大学の研究室とコラボレーションして製品化を目指すベンチャー企業、斬新なアイデアを製品化したいと考える個人起業家など、製品化を目指す企業や個人は多い。

 しかし、新しい技術や斬新なアイデアを持つ製品に、誰もが価値を感じるのであろうか?

 筆者は、製品化を目指す企業や個人から、試作で機能的なことだけを確認した後の量産部品の作製段階で相談を受けることがある。そして、実際に会ってみると、開口一番「ターゲットとしてどのようなユーザーが考えられるでしょうか?」と質問を受けるケースが多い。

 「企業のオフィスに設置したい」など、漠然としたイメージは持っているが「誰が、どのように製品を使用するのか」までのイメージは持っていないのだ。

 ターゲットユーザーを想定していないということは、製品をいくつ販売するか、つまりいくつ生産するかを想定していないことになる。それでは製品化は難しい。製品化には、生産数が大きく影響してくるからだ。また、設計者が設計を進めることも、関連部署や協力メーカーから協力を得ることも困難になる。これらを「コスト/設計的なこと」と「メンタル/ビジネス的なこと」の2つの側面から解説していく。

コスト/設計的なこと

 ターゲットユーザーを想定していないと、販売数が決まらず、生産数も決まらない。部品のコストは、1回の生産数であるロット(一般的には、個/月)で大きく変動する。部品コストは、ロットが大きいほど安くなる。それは、部品を生産する準備にかかる段取り費用が生産数で案分されるからだ。

 要するに、ターゲットユーザーを想定していないということは、部品コストが決まらないに等しい。部品コストが決まらないと、もちろん製品の販売価格も決まらない。他社の類似製品に販売価格を無理に合わせ、製造原価の比率が高くなってしまうと、売れば売るほど損をしてしまうことになりかねない。

 樹脂の量産部品は、基本的に金型がないと作れない。金型費はとても高価だ。PCのマウス程度の大きさの部品の金型費は200万円ほど、40型サイズの液晶テレビの外枠で約1000万円するため、投資した金型費を回収するためには、製品を数千個単位で販売したい。そうなると、もし想定する製品の販売数が数千個以下の場合は、製品に樹脂部品が使えなくなってしまう。ベンチャー企業が、樹脂の3Dプリンタで試作し、検討を進めているのをよく見掛けるが、その部品の金型を作製する資金がなければ、またあったとしても金型費の回収予定がなければ、その試作品と検討はムダになりかねない。

 つまり、ターゲットユーザーが定まらず、製品の生産数が確定できないということは、製品の材料も決まらないのである。さらに、金型部品は金型を配慮した設計にしなければならないため、3Dプリンタで部品を作製できても、金型では生産できない形状もある。

ターゲットユーザーを想定しないと、製品の材料も決まらない
図1 ターゲットユーザーを想定しないと、製品の材料も決まらない[クリックで拡大]

メンタル/ビジネス的なこと

 強力な小型モーターが新たに開発され、このモーターを搭載した「業界最小、最大吸引力の掃除機」を製品化することになったとする。「業界最小」がウリで企画が作られ、設計が開始された。

 ある設計者は、小型でどこにでも持ち運びやすく、クルマの車内などを掃除できるバッテリー搭載の掃除機をイメージして設計を進めた。別の設計者は、小型&軽量で小さな子どもが親のお手伝いで掃除ができる、あるいは女性でも掃除機を持ち上げられて天井のライトなどの高所を掃除できるAC電源の掃除機をイメージして設計を進めていった。

 この例は大げさではあるが、ターゲットユーザーが想定されていないと、設計者によって設計方針の違いが生じ、最終的にはちぐはぐな製品になってしまうことがあるのだ。

 設計を進めるには、多くの人の協力が必要になる。ターゲットユーザーが想定されていないと、設計者のベクトルがそろわないだけでなく、購買/品質保証/製造技術などの関連部署や、部品メーカーなどの協力メーカーからも適切な協力が得られないこともある。外観をデザインするプロダクトデザイナーは、ユーザーが製品を使用する姿や光景をイメージしてデザインをするため、デザイン図を描くことができない。

ユーザーが製品を使用する姿や光景をイメージして外観デザインをする
図2 ユーザーが製品を使用する姿や光景をイメージして外観デザインをする[クリックで拡大] ※iStock/Chaosamran_Studio

 さらには、競合製品が他社から発表されたり、市場に変化があったりした場合に、この製品の設計をこのまま進めるべきか、中止もしくは企画の修正をすべきかの判断もつかない。このような状況で無理に設計を進めると、設計者のモチベーションは下がってしまうことになる。

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