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トヨタの狙いをIBMのパテントコモンズ構想から考察する知財専門家が見る「トヨタ燃料電池車 特許開放」(2)(1/3 ページ)

トヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)特許無償公開の狙いについて解説する本連載。今回は「標準化」の観点をさらに掘り下げ、IBMが提唱した「パテントコモンズ」構想から、トヨタ自動車の狙いを考察してみます。

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 トヨタ自動車(以下、トヨタ)は2015年1月6日に燃料電池自動車(FCV)の普及に向けた取り組みの一環として、同社が保有する約5680件の内外特許を無償公開すると発表しました(関連記事:燃料電池車の普及を促進、5680件の関連特許が無償に)。本連載では、この特許開放の狙いと業界への影響について、知財を切り口としながら解説しています。

 前回の「トヨタの燃料電池車特許の無償公開に見る、4つの論点」では「なぜ特許を無償公開する決断を行ったのか」という理由について「標準化」の観点で紹介しました。今回は、さらにそれをもう少し掘り下げて解説しようと思います。

なぜ特許を無償公開するのか

 さて、あらためて「なぜ特許を無償公開するのか」という点について考えてみます。

 特許取得には多額の費用が掛かります。国内の場合と外国の場合では異なりますが、仮に特許一件あたりのコストが平均して300万円掛かっているとしてみます。その場合、今回トヨタが無償公開した5680件の特許の取得費用は、約170億円掛かったという試算になります。今回のトヨタの発表は、そのコストを、特許によって回収することを放棄すると宣言したということになります。そう考えると、業界に大きな驚きをもって受け止められたのも不思議ではありません。

 この背景を考えると、当然ながらトヨタはそれ以上に大きな市場機会やビジネスチャンスをイメージしていると考えられます。つまり、燃料電池車(FCV)市場を新たに作り上げるために特許の無償公開を行ったということです。FCV市場を作る場合、燃料供給のためのインフラを新たに作る必要があり、新しい市場に乗り換えるための大掛かりな仕掛けが必要となる。そのためには、特許という独占権を捨て、同業他社の参入を積極的に促してFCVを推進しようとしたのです。

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「ミライ」の重要部品のレイアウト(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 このような事業戦略には先例があります。IBMの提唱した「パテントコモンズ」構想がその1つです。

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