今後は、今回開発した基盤アルゴリズムを流体解析、熱解析、構造解析、電磁界解析など、製造業で用いられる具体的なCAE課題へ適用し、検証を進める方針だ。実際の製品設計で現れる複雑な計算課題にも、今回の2つの基盤アルゴリズムを適用し、量子CAEの実現を目指すという。
三菱電機は科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業(目標6)にも参画している。同事業では、今回対象とした「入力」と「計算」だけでなく、「出力」まで含めたエンドツーエンドの一連のフローを構築し、実際のCAEアプリケーションにおいて古典コンピュータに対する量子加速が得られるかを定量的に検証していく。
村上氏は「今回の2つのアルゴリズムも、完全に完成した決定版だとは考えていない。これをベースに改良を重ね、各シミュレーションのアプリケーションに応じて最適化していく必要がある。今後は出力も含め、全ての計算ステップを通して、実際のCAEアプリケーションで現実的な時間内に加速が得られるかどうかを実証していく」と説明する。
さらに、ムーンショット型研究開発事業に参画する量子コンピュータのハードウェア開発チームとも連携し、量子実機上でCAE計算を動かすことを目指している。
「ハードウェアが開発されたら、いち早くわれわれのアルゴリズムをその実機に載せ、実際に量子コンピュータ上でCAE計算が動いたという実証を行いたい。まずは“本当に量子コンピュータがCAEに使える”という確固たる基礎、証拠を示すことを念頭に置いている」(福田氏)
福田氏によると、現在の業界予測では、2030年前後に、ある程度のエラー耐性を備え、実用的な計算機として使える量子コンピュータが登場するとみられている。こうした業界予測を踏まえ、三菱電機はハードウェア側のロードマップに合わせ、2030年前後を最初の大きな目標に設定し、アルゴリズムを実機上で動作させ、実用的な加速の成果を示すことを目指している。
ただし、2030年前後という目標は、量子CAEが一般の設計現場で日常的に使われる時期を意味するものではない。
福田氏は「量子コンピュータが本当に現場の設計者に日常的に使ってもらえるようになるのは、2030年というマイルストーンよりも、さらに先の話になるだろう」との見方を示す。
量子CAEが現場で日常的に使われるためには、設計者自身が数式を直接扱ったり、行列のデータ形式を量子計算用に整理したりする必要がない環境も求められる。現在のCAEと同様に、直感的に操作できるGUIを備えたソフトウェアや、インタフェース、エコシステムの整備が必要になる。
「設計者が本当に解きたいのは、どうやって優れた製品を作るか、どうやって製品の性能を上げるかというところであり、数学や量子計算の苦労をしたいわけではない。現在のCAEと同じようなソフトウェア環境が整備されて、初めて日常的に使われるようになると考えている」(福田氏)
そして、さらにその先に描くのは、設計者自身が量子コンピュータを意識することなく、CAEの計算エンジンの1つとして利用できる環境だ。
村上氏は「未来の究極の形は、設計者が量子コンピュータであることを一切意識せず、ただの1つの選択肢、バックエンドの計算エンジンとして量子を選んで実行する世界だ」と述べる。量子コンピュータは、古典コンピュータを完全に置き換えるのではなく、特定の計算を高速化するアクセラレーターのような位置付けになるとみている。
そこに至るには、まず量子コンピュータが有効に働く特定のアプリケーションを見つけ、量子加速の成功事例を示す必要がある。そして、研究の進展に伴って、期待される効果だけでなく、実際に利用できる範囲や限界も明らかになっていくことだろう。
「研究開発を進めていけば、プラスの発見だけでなく、現実的な効果はこのくらいが限界かもしれないということも分かってくるだろう。しかし、そうした限界が見えたからといって、『量子コンピュータは使えない』と諦めるようなことはしたくない。盛り上がりが冷めるような“冬の時代”がもし来たとしても、そうした苦しい局面を乗り越え、最終的に製造業に変革をもたらすまで研究をやり遂げたい」(福田氏)
量子CAE実現へ前進 三菱電機とQunaSysが2つの基盤アルゴリズム開発
量子コンピューティングとCAEを融合、QunaSysとテクノスターが協業
量子コンピュータ実用化の壁を突破、測定回数を最大1000分の1に削減する技術
三菱電機がQuantinuumと連携、量子コンピューティングでCAEの革新狙う
日産とQuemix、量子アルゴリズムを用いた車両空力解析の有効性を実証
量子コンピュータ上の非線形方程式の計算を指数関数的に加速させる手法を開発Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
メカ設計の記事ランキング