“日本の脳+中国の身体”に勝ち筋? フィジカルAI、日本の取るべき戦略とはFAイベントレポート(1/3 ページ)

中国では、ヒューマノイドの華やかなデモにとどまらず、四足歩行ロボットが地下の送電ケーブルトンネルなどで実運用に入っている。こうしたフィジカルAIの社会実装を支える中国の競争力は、何に由来するのか。そして、日本企業はどの領域で勝機を見いだせるのか。SUGENAが開催したセミナーから、中国のフィジカルAIを支える構造や現場の実例、日本企業が取るべき戦略を読み解く。

» 2026年08月18日 07時00分 公開
[長島清香MONOist]

 生成AI(人工知能)に続く次の技術潮流として、フィジカルAIへの注目が高まっている。なかでも中国では、ヒューマノイドや四足歩行ロボットの開発/実装が急速に進んでいる。その現在地はどこにあり、日本企業はどう向き合うべきか。

 こうした問いに応えるべく、2026年7月23日、中国ビジネス支援を手掛けるSUGENAは、オンラインセミナー「中国フィジカルAI最前線〜現在地と日本の勝ち筋〜」を開催した。セミナーでは、SUGENA 代表取締役社長で、元東芝中国 会長兼社長の須毛原勲氏と、同社戦略顧問で、清華大学卒業後、中国で早期からフィジカルAIの実装に取り組んできた鐘明博氏が登壇。須毛原氏は、中国のフィジカルAIを支える構造と日本企業の勝ち筋を解説し、鐘氏は、中国で進む四足歩行ロボットの具体的な実装事例を紹介した。

 本稿では、セミナーで語られた中国におけるフィジカルAIの現在地と、日本企業が取るべき戦略を整理する。

産業用ロボットとは“別競技”のフィジカルAI

 ChatGPTに代表される生成AIが、文章や画像などの情報を画面の中で生み出す技術であるのに対し、フィジカルAIは、センサーやカメラなどを通じて現実世界を認識し、判断し、行動するAIを指す。須毛原氏は、両者の違いを「失敗のコスト」という観点から説明した。生成AIは出力に誤りがあっても修正や再生成ができるが、現実世界で動くフィジカルAIは、転倒や停止、設備の破損などにつながり得る。そのため、より高度な技術が求められるという。

SUGENA 代表取締役社長の須毛原勲氏 SUGENA 代表取締役社長の須毛原勲氏

 フィジカルAIが日本にとって不可欠とされる背景には、深刻化する人手不足がある。2040年には、働き手が約1100万人足りなくなり、介護職、ドライバー職、建設職では不足率が2桁に達すると予測されている。須毛原氏は、「これは単に採用が難しくなるという話ではなく、日本社会を維持できるかにかかわる問題だ」と述べ、「フィジカルAIは、選択ではなく必要条件だ」と強調した。

 このフィジカルAIについて須毛原氏は、日本が得意としてきた産業用ロボットとは「別の競技」だと指摘する。産業用ロボットは床に固定され、決められた動作を繰り返すもので、サーボや減速機、制御技術には日本の強みがある。

 一方、フィジカルAIは自ら移動し、状況を判断しながらさまざまな動作を行う。そのため、従来の技術を土台にはできても、多様な物をつかむ手や、状況を判断するAI、周囲を認識するセンサーには、産業用ロボットとは異なる技術が求められるという。

産業用ロボットとフィジカルAIの違い 産業用ロボットとフィジカルAIの違い[クリックで拡大]出所:SUGENA

 このフィジカルAIの分野で先行しているのが中国だ。SUGENAが複数の調査を基にまとめた資料によると、2025年の中国製ヒューマノイドの出荷台数は約1万4400台と、前年の約2000台から約7倍に増加し、世界シェアは84.7%に達した。

 須毛原氏はフィジカルAIを、状況を理解して次の行動を決める「大脳」、歩行や把持、姿勢維持などの運動を制御する「小脳」、ロボット本体に当たる「身体・完成品」、減速機やLiDAR、触覚センサーなどの「部品」に分けて説明。

 そのうえで、中国のフィジカルAIの発展について、「驚くべきはこのどれか1つが強いというわけではなく、大脳も小脳も体も強いことだ。メディアでも取り上げられるユニコーン企業に加えて、減速機やLiDAR、触覚センサーまで、あらゆる領域を中国企業が手掛けている。この広がりと層の厚さに、中国のフィジカルAI関連企業の発展度合いのすごさが表れている」と述べた。

フィジカルAIを構成する要素のイメージ フィジカルAIを構成する要素のイメージ[クリックで拡大]出所:SUGENA

 さらに、その成長を支えているのが、世界的なロボットやフィジカルAIへの注目、EV産業で築いた部品サプライチェーン、アプリケーションの開発力、豊富な検証の場、政府による出資や発注、スタートアップを支える資金調達インフラという6つの要因だ。

 なかでも大きいのが、EV向けに量産されてきたモーターやLiDARなどの部品を、安価かつ大量に調達できる供給網と、完成度が60〜70点の段階から現場へ投入し、試行錯誤を重ねられる環境である。政府や国有企業による発注、政府系やIT企業などのファンドによる投資も、こうした取り組みを支えている。

中国のフィジカルAI産業を支える6つの構造的要因 中国のフィジカルAI産業を支える6つの構造的要因[クリックで拡大]出所:SUGENA
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