“日本の脳+中国の身体”に勝ち筋? フィジカルAI、日本の取るべき戦略とはFAイベントレポート(2/3 ページ)

» 2026年08月18日 07時00分 公開
[長島清香MONOist]

中国で加速する四足歩行ロボットの実装

 中国ではフィジカルAIが実際にどのような現場で使われているのか。鐘氏は、自ら開発に携わったロボットソリューションの実例を交え、その実態を紹介した。

 中国では、ヒューマノイドによるダンスやマラソンなどが注目されている。ただし鐘氏は「人型ロボットが産業現場で広く使われるまでには、あと2〜3年かかるというのが一般的な認識だ」と説明する。一方、既に実用化が進んでいるのが四足歩行ロボットだ。電力をはじめとする社会インフラの点検や防災、消防などで活用され、工場の巡回点検にも広がり始めている。

 鐘氏が最初に紹介したのは、地下の高電圧送電ケーブルトンネルの自動点検だ。鐘氏はもともと高電圧送電を専門とし、長くソフトウェア開発に携わってきた。その経験から、地下への埋設が進む送電ケーブルを24時間自動で点検できれば社会的な意義が大きいと考え、開発に着手したという。

 地下トンネルは通信環境が悪く、長時間にわたって人が巡回するにも負担や危険を伴う。そこで、四足歩行ロボットに自律走行技術や専用センサー、異常検知の仕組みを組み合わせた。通信が不安定な環境でもトンネル内を自動走行し、ケーブルの温度変化や放電現象など、事故の予兆となる異常を検知する。2023年に杭州で開催されたアジア競技大会の会場地下にある送電トンネルでの実証を経て、現在は中国8都市の電力会社や地方政府が管理する地下トンネルで利用されている。

地下の高電圧送電ケーブルトンネルを巡回する四足歩行ロボット 地下の高電圧送電ケーブルトンネルを巡回する四足歩行ロボット[クリックで拡大]出所:SUGENA

 さらに鐘氏のチームは、この技術を変電所の巡回点検や作業へと広げた。変電所間の移動には自動運転車両を用い、到着後は四足歩行ロボットが自ら施設内へ入る。配電盤を探してメーターの数値を読み取るほか、手順の決まった作業、特に高電圧で危険を伴う作業も担う。こうした技術は、半導体や電子部品、家電製品の製造工場にも展開され始めている。

変電所内の配電盤を操作するロボットアーム 変電所内の配電盤を操作するロボットアーム[クリックで拡大]出所:SUGENA

 大型機だけでなく、安価な小型ロボットを使った用途開発にも取り組んでいる。鐘氏は、農地での除草やゴルフ場での利用を例に挙げた。

 ゴルフ場では、プレーヤーへの伴走や、ボールを打つ際の映像の記録、解析に加え、画像認識で傷んだ芝を見つけて砂を入れ、補修する用途も開発しているという。また、鐘氏らが開発したナビゲーションシステムを搭載した四足歩行ロボットは、指定した目的地まで障害物を識別しながら自律走行でき、自動巡視や警備への応用も想定されている。

 そして現在、鐘氏のチームが取り組んでいるのが、四足歩行ロボットとドローンを組み合わせた設備点検だ。四足歩行ロボットは稼働時間が長く、地面を細かく検査できる。一方、ドローンは広い範囲を監視できるが、稼働時間は短い。両者を組み合わせ、それぞれの弱点を補いながら、大型プラントの巡回点検などに応用しようとしている。

 鐘氏は「人型や四足、ドローン、AGVなど、さまざまなロボットを組み合わせる形が考えられる。近い将来、ロボットがかなりの部分で人間の代わりに稼働できるようになる」との見通しを示した。

四足歩行ロボットとドローンを組み合わせた協働作業の実験 四足歩行ロボットとドローンを組み合わせた協働作業の実験[クリックで拡大]出所:SUGENA

不足する“ロボットソリューション”、日本企業に商機

 ここで重要なのが、ロボット本体を導入しても、ボタンを押すだけですぐに動き出すわけではないということだ。実際の業務で使うには、アルゴリズムやアプリケーションソフト、専用センサーなどを組み合わせ、現場に合ったソリューションに仕立てる必要がある。こうして初めて、ロボットは実際の仕事を担えるようになる。

 前述した地下トンネルや変電所の事例でも、鐘氏は2022年秋から、ロボット本体に自ら開発したアルゴリズムやアプリケーションソフト、専用センサー、6軸アームなどを組み合わせ、産業向けのソリューションを開発してきた。

 鐘氏によると、中国ではロボット本体を手掛ける企業が1000社を超え、既に過剰競争になっている。一方、ロボットを特定の産業で使える形に仕立てるソリューション企業は、まだ1000社に満たない。鐘氏は、この領域を「これから急成長してチャンスが出てくる分野だ」と述べた。

 須毛原氏も、フィジカルAIの構成要素のうち、最も重要なのが「業務アプリ」だと強調した。現場固有の知識を、ロボットが実行できるアプリケーションへ落とし込めるかが、実用化の成否を分ける。それゆえ同氏は、この業務アプリの開発が、日本企業が強みを発揮できる領域だとみている。

中国の四足歩行ロボット産業を構成する主要領域 中国の四足歩行ロボット産業を構成する主要領域[クリックで拡大]出所:SUGENA

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