北中米W杯決勝の舞台となったニューヨークが直面した「複合災害」の健康リスク海外医療技術トレンド(134)(3/3 ページ)

» 2026年08月14日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]
前のページへ 1|2|3       

決勝戦直前で複合災害のリスクが重なったニューヨーク

 カナダ・トロントにおけるFIFAワールドカップ2026の全公式試合が終了し、準決勝のイングランド−アルゼンチン戦が行われた2026年7月15日、ニューヨーク市緊急管理局(NYCEM)と市保健精神衛生局(DOHMH)は、「カナダの山火事の煙が地域に流入する中、ニューヨーク市の猛暑緊急計画を木曜日まで延長」と題する声明を発表した(関連情報)。

 ニューヨーク市当局によると、カナダのオンタリオ州西部で拡大する大規模な山火事の影響により、微小粒子状物質(PM2.5)を含んだ煙の塊(気流)がニューヨーク州をゆっくりと移動しており、7月15日からニューヨーク市上空でも目視できる見込みであるとした。地上レベルへの具体的な影響やタイミングは声明の時点では不確実であり、一時的な空気質指数の上昇は予想されるものの、「空気質健康注意報」を発令する基準値未満にとどまる予測となっていた。ただし、市内は現在猛暑に見舞われており、複数の環境リスクが重なるため注意を呼びかけた。

 この煙の到来は、当時市内で継続中の熱波の最中に重なった。7月15日はこの時の熱波のピークと予測され、気温は100°F(約37.8℃)、熱中症指数(ヒートインデックス)は102〜103°Fに達する見込みで、熱中症注意報が発令されていた。さらに、オゾンによる空気質注意報も既に発令中で、空気質指数(AQI)は「敏感なグループにとって不健康」とされる「105」に達している。山火事の煙が加わると、既存のオゾン汚染の上にPM2.5の汚染が上乗せされる形となる。

 このような状況下でニューヨーク市当局は、「猛暑と空気質悪化が重なった場合、暑さ対策(生命への即座の危険性)を最優先すること」を強く要請している。猛暑は即座に命を脅かす最も危険な気象災害であるため、以下の行動指針が示された。

  • 自宅にエアコンがない場合:空気質が悪くても、ためらわずに市が運営する「クーリングセンター」へ行くこと
  • 自宅にエアコンがある場合:涼しい室内にとどまること。きれいな空気を求めてわざわざ外出してはならない

 さらに7月17日、ニューヨーク市緊急管理局は、国立気象局(NWS)がニューヨーク市に対して7月18日午前10時から同月19日早朝にかけて洪水注意報を発令したことから、予防措置として市の「突発的洪水緊急計画」を発動した(関連情報)。

 このように、FIFAワールドカップ2026決勝戦に至るまでのニューヨーク市の対応状況をみると、単一の災害や感染症だけでなく、大規模群衆(Mass Gatherings)+気候変動による酷暑と猛暑+感染症パンデミック/新興感染症(HCIDs)+サイバー攻撃/インフラ障害などが同時に発生する「複合災害(Compound Disasters)」を想定した、高度な公衆衛生面の事業継続管理(BCM)を計画し、運用する必要がある。

大規模イベント/複合災害時に力を発揮する医療機器/サービスへの期待

 2026年7月22日、ニューヨーク市緊急管理局(NYCEM)は、熱波、煙、暴風雨に対する市全体の1週間にわたる統合対応を経て、FIFAワールドカップ2026の運用期間およびワールドカップ決勝戦のウイークエンドを終了したことを発表した(関連情報)。

 同市が迅速に対応できた要因として、酷暑や大気汚染といった複合リスクに対する先回りした予防介入、現地スタッフやボランティアによる外国人旅行者等へのアウトリーチ、市関係機関や地域医療機関が一体となった多機関連携(One City Approach)による医療逼迫の回避が挙げられる。

 その後7月27日には、FIFAワールドカップ2026の開催に伴う事業継続/災害復旧の対応準備を支援してきたDHS傘下の連邦緊急事態管理庁(FEMA)が、一連の支援活動を終了したことを発表した(関連情報)。

 連邦政府レベルでは、DHS、FEMA、そしてFIFAワールドカップ2026ホワイトハウス・タスクフォースが、自然災害に対応する「全国応答調整センター」をモデルとした「特別イベント調整センター(SECC)」を設置すると同時に、全ての連邦パートナー、FIFA、開催都市、共同開催国間の連携コミュニケーションを確実にするため、「特別イベント合同情報センター」も設置した。FEMAは、この大会が、緊急事態管理の基本原則である「地域主導(locally-led)、州管理(state-managed)、連邦支援(federally supported)」を証明するものとなったとしている。

 今後、大規模イベントや複合災害時における医療機関の対応力維持が不可欠となる中、医療機器やデジタルヘルス企業などのパートナーには、平常時/緊急時の環境変化に柔軟に対応できる事業継続管理体制(BCM)の構築/運用や、オンサイトとオフサイト双方で現場業務を幅広く支援する機器/サービスの拡充が強く期待されている。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)

宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(博士(医薬学))。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

Twitter:https://twitter.com/esasahara

LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara

Facebook:https://www.facebook.com/esasahara


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
Special SitePR
あなたにおすすめの記事PR