本連載第132回で米国のAIサプライチェーン管理策としてSBOMからAIBOMへ進化しつつある動向を取り上げた。今回は、EUのAI法、サイバーレジリエンス法、欧州保健データスペース(EHDS)規則などの適用が同時並行で進む欧州の視点から、AIBOMの方向性を整理する。
本連載第132回で米国のAI(人工知能)サプライチェーン管理策としてSBOM(ソフトウェア部品表)からAIBOM(AI部品表)へ進化しつつある動向を取り上げた。
今回は、EUのAI法、サイバーレジリエンス法、欧州保健データスペース(EHDS)規則などの適用が同時並行で進む欧州の視点から、AIBOMの方向性を整理する。
2023年の「広島AIプロセス」(関連情報)以降、G7諸国の中で「AIのためのソフトウェア部品表(SBOM for AI)」の提案を積極的に主導してきたのは、ドイツとイタリアである。ドイツ連邦情報セキュリティ庁(BSI)とイタリア国家サイバーセキュリティ庁(ACN)は、G7サイバーセキュリティ作業部会(CSWG)の下で、「AIのためのソフトウェア部品表に関するG7共有ビジョン」を共同起草し、2025年5月12〜13日にカナダのオタワで開催された会合で同作業部会から承認された(関連情報))。
このG7共有ビジョンによると、「AIのためのSBOM」の定義について、「AIシステムの構築に使用される多様な構成要素について、その詳細およびサプライチェーン上の相互関係をまとめた構造化された記録」としている。AIのためのSBOMの目的については、「AIのサプライチェーンの透明性を高め、その構成要素や依存関係のトレーサビリティーを向上させることにより、AIシステムのセキュリティ強化に寄与する」としている。
本ビジョンでは、AI向けSBOMが効果的に機能するために、以下の3つの特性が満たされていることを保証する必要があるとしている。
その上で本ビジョンは、表1に示すようなAI向けSBOMの最小構成要素を推奨し、これらをクラスタとして例示している。
表1 G7共有ビジョンにおけるAIソフトウェア部品表の最小要素(例)[クリックで拡大] 出所:National Cybersecurity Agency (ACN)「A shared G7 vision on software bill of material for AI」(2025年6月16日)を基に筆者作成そして、G7サイバーセキュリティ作業部会は、AI向けSBOMフレームワークの技術的実装を促進するための「G7ガイドライン」採択に向けた、今後のステップを明確に示すとしていた。
その後2026年5月12日、G7サイバーセキュリティ作業部会は、「人工知能のためのソフトウェア部品表(SBOM)- 最小要素」(関連情報)と題する文書を公開した。本文書は、欧州委員会との協力の下、BSIとACN、フランス国家情報システムセキュリティ庁(ANSSI)、カナダ通信安全保障局(CSE)、米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)、英国国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)および日本の内閣サイバーセキュリティセンター(NCO)が連名で公開したものである。
AIシステムのサプライチェーン、ならびにその個々の構成要素や依存関係に関する情報へのアクセスは、AIのサイバーセキュリティを強化する上で極めて重要である。AIシステムの構成に関する透明性と知識は、脆弱(ぜいじゃく)性管理を促進し、サイバーセキュリティのリスクマネジメントを支えるものである。この文書では、前述のG7共有ビジョンを土台として、AIサプライチェーンにおける透明性とサイバーセキュリティを向上させることを目的としている。
前述のAIのためのSBOMに関するG7共有ビジョンでは、概念レベルでの必要最小限の構成要素を8つのクラスタとして例示していたが、「AIのためのソフトウェア部品表 - 最小要素」では、構成要素の大分類カテゴリーとしてクラスタを位置付け、クラスタごとに最小要素を例示する形になっている。図1は「AIのためのソフトウェア部品表 - 最小要素」の大分類カテゴリーとなる7つのクラスタ(メタデータ、システムレベルのプロパティ、モデル、データセットのプロパティ、インフラストラクチャ、セキュリティのプロパティ、主要パフォーマンス評価指標[KPI])を、表2は各クラスタの最小要素を示している。
図1 G7が主導するAIのためのSBOMにおける7つのクラスタ[クリックで拡大] 出所:Federal Office for Information Security (BSI)「Software Bill of Materials (SBOM) for Artificial Intelligence - Minimum Elements」(2026年5月12日)
表2 G7が主導するAIのためのSBOMにおける7つのクラスタと最小要素[クリックで拡大] 出所:Federal Office for Information Security (BSI)「Software Bill of Materials (SBOM) for Artificial Intelligence - Minimum Elements」(2026年5月12日)なお、G7サイバーセキュリティ作業部会は、AIエージェントの急速な発展に伴い重要性を増している「AIシステムの意志決定レベルや自律性」について、将来的なSBOM for AIの構成要素として検討した。この要素はシステムが侵害された際の影響評価に有用であるが、セーフティ要件など各法域で扱いが異なる可能性があるため、独立した要素としての明記は見送られた。また、SBOM for AI単体ではサプライチェーンのサイバーセキュリティ強化に不十分であることも強調されている。サプライチェーンを実質的に保護するためには、SBOM for AIを脆弱性スキャン/管理ツール、セキュリティアドバイザリー/広報などと連携させ、柔軟かつ進化可能なツール作成メカニズムの開発を進めることが不可欠だとしている。
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