従来のソフトウェア主導だったSBOMを、AIモデルや学習データ、インフラ環境、セキュリティまで拡張するAI向けSBOMの技術仕様標準化において、重要な役割を担っているのが、オープンソースコミュニティーや国際的な非営利団体である。
例えば、Linux Foundation傘下でSBOMの国際標準規格を推進する「SPDX(Software Package Data Exchange)」プロジェクト(関連情報)は2024年4月16日、「SPDX 3.0」のリリースを発表した(関連情報)。
従来のSPDX 2.xは、ソースコードやバイナリといったパッケージソフトウェアを前提とした1次元的なデータモデルであったが、SPDX 3.0へのバージョンアップにより、アーキテクチャのモジュール化(プロファイル構造)、AI/ML(機械学習)モデルおよびデータセットへの対応、セキュリティと脆弱性対応(VEX統合)、ビルド工程とサプライチェーン追跡の強化、運用の合理化とエコシステムの拡大など、AIBOMを想定した機能の拡充を行った。その結果、G7の「AIのためのSBOM」を構成するクラスタとSPDX 3.0のプロファイルやクラスの関係性が大幅に強化されている。
クラスタのうち「3.モデル」に関連して、SPDX 3.0から新たにAI Profile(AI_AIModel クラス)が定義され、モデルのハイパーパラメータ、モデルアーキテクチャ、自律性のタイプ(ai:autonomyType)、モデルカードへの参照などが標準フィールドとして記述可能になった。
また、「4.データセットのプロパティ」に関連して、SPDX 3.0から「Dataset Profile」および「新リレーションシップ」が導入された。Dataset Profile(Dataset_Datasetクラス)により、データ収集プロセスやデータサイズ、機密性区分(dataset:confidentiality)を定義できるようになった。さらにCore_Relationship において、TRAINED_ON(〜で学習された)や GENERATED_FROM(〜から生成された)といったAI専用の依存関係が定義可能になっている。
このようにSPDX 3.0を契機に、従来の単なるソフトウェアライセンス管理やSBOMの枠組みを超え、AI/ML、データセット、セキュリティ脆弱性(VEXなど)、機能安全といった複雑なAIシステム全体をカバーする包括的なモデルへと発展している。
他方、OWASP傘下でソフトウェアサプライチェーンの透明性とセキュリティを強化するSBOMの国際標準規格を推進する「CycloneDX」プロジェクト(関連情報)は2023年6月26日、「CycloneDX v1.5」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.5では、AI/MLモデルを記述するためのコンポーネントタイプ(machine-learning-model)が追加され、GoogleやHugging Faceなどで使われるモデルカード(Model Card)の概念がスキーマに統合された。これにより、モデルの基本情報、アーキテクチャ、ハイパーパラメータ、倫理的配慮、評価指標などを記述できるようになり、AIBOM機能が初めて実装されたバージョンとなった。
さらにOWASPは、2024年4月9日、「CycloneDX v1.6」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.6では、以下のような機能が強化されている。
このような機能強化により、CycloneDX v1.6は、G7の「AIのためのSBOMの最小要素」を、包括的かつ機械読取可能なデータ形式(JSON/XML)でフルカバーできる標準規格となっている。
そして、CycloneDX v1.6は、従来の「ソフトウェア部品表(SBOM)」「ハードウェア部品表(HBOM)」「SaaS部品表(SaaSBOM)」「AI/ML部品表(AI/ML-BOM)」に加え、「暗号部品表(CBOM)と、セキュリティコンプライアンス(規格適合、規制準拠)の証明手続きをデータ(コード)として機械読取可能な形式で標準化/自動化する技術フレームワークである「サイクロンディーエックス・アテストステーション(CDXA)」を統合した包括的な規格へと進化した。これにより、AIやポスト量子暗号の時代における先進的なサプライチェーンリスク管理と自動化を実現するとしている。
その後2025年10月21日、OWASPは「CycloneDX v1.7」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.7では、以下のような機能が強化されている。
このようにCycloneDX v1.7では、PQC対応を進めるCBOMの高度化、ソフトウェアのライセンスや著作権リスクを管理するIPBOMの強化、ならびにデータセットやAIモデルの出自を担保するデータ来歴機能の拡張が実現されている。
OWASP傘下には、生成AIおよびLLM(大規模言語モデル)の急速な普及に伴うセキュリティリスク、プライバシー問題、ガバナンス課題に対処するための国際的なオープンプロジェクトを行う「生成AIセキュリティプロジェクト(OWASP GenAI Security Project)」(関連情報)があり、その中の「OWASP AIBOM」イニシアチブ(関連情報)では、2026年第3四半期から「AgBOM:エージェンティック部品表」(関連情報)という作業部会がスタートした。2027年第2四半期までに「AgBOM v1.0フレームワーク」およびその実装ガイダンスを発行する計画である。
なお欧州委員会は、2026年6月3日に発表した「技術主権パッケージ」提案(関連情報)の一環として、「EUオープンソース戦略」(関連情報)を打ち出し、オープン開発コミュニティーへの支援を通じて、ベンダーロックインを防ぎ、EU域外の技術への過度な依存を減らしてイノベーションを促進する姿勢を鮮明にしている。
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