北中米W杯決勝の舞台となったニューヨークが直面した「複合災害」の健康リスク海外医療技術トレンド(134)(1/3 ページ)

前回は、スマートシティーの観点からFIFAワールドカップ2026のホストシティーであるカナダのトロントに焦点を当てた。今回は、公衆衛生面の事業継続管理の観点から、同大会決勝戦の開催地となった米国のニューヨーク/ニュージャージーに焦点を当てる。

» 2026年08月14日 07時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 前回は、スマートシティーの観点から第23回ワールドカップ大会(FIFAワールドカップ2026)のホストシティーであるカナダのトロントに焦点を当てた。今回は、公衆衛生面の事業継続管理の観点から、同大会決勝戦の開催地となった米国のニューヨーク/ニュージャージーに焦点を当てる。

⇒連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー

米国の重要インフラに指定されたFIFAワールドカップ2026決勝戦

 2026年6〜7月、FIFAワールドカップ2026が、米国、カナダ、メキシコの北中米3カ国/16競技会場で共同開催された。米国では、アトランタ(ジョージア州)、ボストン(マサチューセッツ州)、ダラス(テキサス州)、ヒューストン(テキサス州)、カンザスシティ(ミズーリ州)、ロサンゼルス(カリフォルニア州)、マイアミ(フロリダ州)、ニューヨーク/ニュージャージー(ニューヨーク州/ニュージャージー州)、フィラデルフィア(ペンシルベニア州)、サンフランシスコ・ベイエリア(カリフォルニア州)、シアトル(ワシントン州)の11都市が各会場のホストシティーとなり、個々のホストシティーに設置されたホスト委員会が、スタジアム運営やファンの受け入れを担当する広域開催イベントとなった。

 2025年3月7日には、ホワイトハウスが「大統領令14234号(2026 FIFAワールドカップに関するホワイトハウス・タスクフォースの設立)」(関連情報)を発出し、それに基づいて「FIFAワールドカップ2026ホワイトハウス・タスクフォース」(議長=米国大統領のドナルド・トランプ氏、副議長=同国副大統領のJ・D・ヴァンス氏、執行責任者=元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏、事務局=国土安全保障省(DHS))が設置された。本タスクフォースは、米国内の11のホストシティー、各国政府およびFIFAとの連携を深め、セキュリティ、入国管理、交通インフラ、公衆衛生などの多岐にわたる分野で万全の準備を整えることが責務となっている。

 米国連邦政府は、ニューヨーク/ニュージャージーで開催されたFIFAワールドカップ2026の決勝戦を「国家特別安全保障イベント(NSSE)」に指定した(図1参照、関連情報)。

図1 図1 米国政府の国家特別安全保障イベント(NSSE)に指定されたFIFAワールドカップ2026の決勝戦[クリックで拡大] 出所:The White House「FIFA World Cup Final 2026」(2026年7月20日)

 「FIFAワールドカップ2026ホワイトハウス・タスクフォース」は、以下のような組織態勢で本大会に向けた事業継続管理の対応準備を支援した。

  • 米国シークレットサービス(USSS):警備計画の策定と実施(「SEAR(特別イベント評価格付け)」の場合は、地方/州政府が主導する)
  • 連邦捜査局(FBI):情報収集、捜査、テロ対策
  • 連邦緊急事態管理庁(FEMA):災害発生時の応急処置や復旧支援

 なお、決勝戦以外の試合は「SEAR」に指定され(関連情報)、ホストシティーの州政府/自治体が主導して、決勝戦と同様に、FBIやFEMAが事業継続管理を支援する形態をとっている。

 そして、サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)は、DHSの傘下および「重要インフラの全米コーディネーター」として、USSSや地方/州政府を支え、会場周辺や国家レベルの重要インフラを保護する実務的な技術・評価部隊として機能する。また、連邦航空局(FAA)は、米国領空内の空域安全管理および航空/ドローン統制の主管機関として、大会前後の期間中、スタジアム周辺に厳格な飛行禁止区域を設定し、臨時飛行制限(TFR)の発令および高度な対ドローン(Counter-UAS)システムの運用を行っている(関連情報)。

ニューヨーク州/市が共同で2026年ワールドカップ対応準備策を発表

 一方、FIFAワールドカップ2026の決勝戦のホストシティーとなるニューヨーク/ニュージャージーは2026年6月4日、ニューヨーク市長のゾーラン・クワメ・マムダニ氏とニューヨーク州知事のキャシー・ホークル氏が共同で、FIFAワールドカップ2026の開催に伴い、市民や観光客の安全確保と円滑な移動を実現するための多機関連携計画を発表した(関連情報)。両氏は、数カ月に及ぶ事前調整と訓練を経て、交通、緊急事態管理、保健医療、市内美化など多方面での準備が整ったことを強調している。その具体的な対策は以下の通りである。

  • 交通計画と公共交通機関の増便:
    試合当日、マンハッタンのミッドタウン(42丁目、5番街/6番街の一部など)に専用交通回廊を設置し、キックオフ6時間前から試合終了3時間後までアクセスを公式シャトルバスや緊急車両などに制限する。また、試合日を「大渋滞警告日(Gridlock Alert Day)」に指定してマイカー利用の自粛を促す。メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ(MTA)は主要路線の増便や駅への案内係の配置を行い、期間中のミッドタウン周辺での地下鉄工事を一時中断する
  • 緊急事態管理と多言語情報発信:
    NYC緊急管理局(NYCEM)は統合調整体制を敷き、猛暑や突発的洪水などの異常気象にも備える。市民や訪問者向けに、リアルタイムの緊急通知を英語、スペイン語、フランス語で受け取れる専用テキストサービス(「SUMMER26」を692-692に送信)やWhatsAppチャンネルを開設した
  • 保健/医療体制の強化:
    保健当局は感染症監視や医療キャパシティー超過を想定した訓練を重ねてきた。公立医療機関では猛暑に備えたクーリングセンターを準備し、消防/救急(FDNY/EMS)は人員を増強して対応する
  • 環境美化と違法タクシー対策:
    衛生局はイベント会場や交通拠点周辺の清掃を強化。タクシー・リムジン委員会(TLC)は、空港などでの無許可のぼったくりやメーター不使用などの違法行為を厳しく取り締まる

 これらのうち保健/医療体制の強化に関連して、ニューヨーク市保健精神衛生局(DOHMH)は、「今夏のニューヨーク市で開催される大規模イベントにおける医療・保健計画上の考慮事項」(関連情報、PDF)を公表している。その中で表1は、夏季に開催されるFIFAワールドカップ2026の潜在的な公衆衛生リスクを整理したものである。

表1 表1 ニューヨークの2026年FIFAワールドカップ大会における潜在的な公衆衛生リスク(2026年5月)[クリックで拡大] 出所:New York City Department of Health and Mental Hygiene「Health Care Planning Considerations for Large Events in NYC This Summer」(2026年5月)を基に筆者作成
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
Special SitePR
あなたにおすすめの記事PR