トヨタ自動車がクルマづくりにどのような変革をもたらしてきたかを創業期からたどる本連載。第13回は、1924年(大正13年)に完成し、1925年(大正14年)に本格量産を開始した「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」の技術詳細について解説する。「世界最高の織機」はいかにして完成し、どのような革命を起こしたのだろうか。
連載第4回から、トヨタ自動車の創業以前に時代を巻き戻し、自動力織機の発明によってトヨタ自動車創業に向けた礎を作り上げた豊田佐吉が活躍した時代の政治状況や織機技術の変遷、世界のクルマの発展などを紹介している。
前回の連載第12回では、1925年(大正14年)の日本の経済、政治の状況と併せて、豊田佐吉と喜一郎の歩みを紹介した。この1925年は、トヨタ史において「自働化」が完成し「電動化」が始まった記念すべき1年となった。今回は、「自働化」の完成を意味する「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」の技術詳細について解説する。この「世界最高の織機」はいかにして完成し、どのような革命を起こしたのだろうか。
⇒連載「トヨタ自動車におけるクルマづくりの変革」バックナンバー
無停止杼換式豊田自動織機(G型)は、豊田佐吉が1902年(明治35年)以降、23年にわたって、80数回の発明/改良を繰り返すことで完成した自動織機である。よこ糸切断自動停止装置、たて糸切断自動停止装置、たて糸送出装置、無停止自動杼換装置など多くの自動化装置をはじめ、さまざまな状況に自動的に対処できる各種の保護安全装置など24種の発明装置が装着され、自動織機として完璧なまでに完成された。
例えば、機械式検知器は、たて糸が切れると自動的に織機を停止する。この機能の背後にある考え方は「自働化」、つまり人間の手による自動化だった。労働者は自動織機の監視から解放され、工場主は1人の労働者が最大30台の機械を操作できるようになり、労働生産性が飛躍的に向上した。そして、権利の売却益はトヨタの自動車事業の立ち上げ資金となった。
こうして、豊田佐吉が自動織機の研究に取り組み、以後20有余年の努力の成果が喜一郎をはじめとする部下らによって結実したのである。
図1に、無停止杼換式豊田自動織機(G型)を示す。図1(a)は、試作直後の無停止杼換式豊田自動織機(G型)である。一方、図1(b)は、トヨタ産業技術記念館の展示機で、1925年(大正14年)に製作されたものを完全に復元し、動態展示したものだ。本機には無停止杼換式自動織機の記念すべき第1号機であることを示す製作番号「No.1」が刻印されており、大変貴重な産業遺産である。
同機については、まずトヨタ産業技術記念館の紹介映像「日本の産業近代化の先駆け ー “魔法の織機” G型自動織機《トヨタ産業技術記念館 バーチャルガイドツアー:繊維機械館》」をご覧いただきたい。
トヨタグループ形成の礎となり、日本の産業技術史上に特筆される発明品となった無停止杼換式豊田自動織機(G型)の誕生による主な功績と評価を整理すると、以下のようにまとめられる。
1924年に完成した無停止杼換式豊田自動織機(G型)に搭載された、いわゆる「24の自働機構」は、豊田佐吉が30年以上の歳月をかけて完成させた発明の集大成である。これにより「完全無停止、高品質、多台数管理」が実現した。
24の自働機構については、連載第7回の図2および表1に示しているが、あらためて「自働化(杼換/探糸)」「保護/安全(糸/機械)」「品質維持/仕上げ」「構造/駆動部品」「調整/補機」といった機能に分類して表1にまとめた。
| 分類 | 番号 | 機構・装置名 | 役割と効果 |
|---|---|---|---|
| 自働化(杼換/探糸) | 1 | 自働杼換装置 | 運転を止めずに空の杼を新しい杼と交換する核心装置(特許65156など) |
| 2 | よこ糸探り装置(フィーラ) | 杼内の緯糸残量を機械的に検知し、交換のタイミングを図る | |
| 3 | よこ糸切断自働停止装置 | 緯糸が切れた際、空織りを防ぐため即座に停止する(サイドフォーク) | |
| 4 | ウェフトフォーク抑制装置 | 高速運転時、停止装置の誤作動を防ぎ安定性を高める | |
| 保護/安全(糸/機械) | 5 | たて糸送出装置 | たて糸の残量に関わらず、常に一定の張力で送り出す |
| 6 | たて糸切断自働停止装置 | たて糸が切れるとドロッパが落ちて機械を止める(特許64513) | |
| 7 | 杼換準備装置 | 次に交換する杼をあらかじめ最適な位置へセットする | |
| 8 | たて糸保護装置 | 杼の走行異常時にたて糸が過度に引き伸ばされるのを防ぐ | |
| 9 | 杼換安全装置 | 換杼の際、不適切なタイミングでの動作を物理的にロックする | |
| 10 | 予備杼溜(マガジン) | 交換用の杼を垂直にストックし、順次供給する(回転倉) | |
| 11 | 投杼安全装置 | 杼を打ち出す力が不足している場合、事故防止のため停止する | |
| 品質維持/仕上げ | 12 | 巻取装置 | 織り上がった布を、設定した密度で正確に巻き取る |
| 13 | 耳残り糸切断装置 | 換杼の際に残る「古い糸端」を自動的にカットする | |
| 構造/駆動部品 | 14 | 杼(シャットル) | 高速換杼に耐え、緯糸を安定して引き出す専用設計の杼 |
| 15 | 投杼桿受 | 杼を打ち出す棒(ピッキングスティック)の衝撃を受け止める | |
| 16 | ブレーキ切り装置 | 停止信号が出た際、クラッチを切りブレーキを即座にかける | |
| 17 | 杼押装置(スエル) | 杼箱に入った杼を適度な摩擦で保持し、跳ね返りを防ぐ | |
| 18 | 杼箱蓋 | 高速走行する杼が飛び出さないよう、上部から確実に押さえる。 | |
| 19 | 杼受箱 | 排出された空の杼を、損傷させずに受け止めるボックス | |
| 20 | 投杼桿戻し装置 | 打ち出した後の棒を、スプリングや重力で素早く元の位置に戻す | |
| 調整/補機 | 21 | 綜筬(そうおさ) | たて糸を上下させ、緯糸を打ち込むための基本構造の最適化 |
| 22 | 綜筬枠釣手 | 綜絖枠を吊り下げ、スムーズかつ正確な開口運動を支える | |
| 23 | 綜絖枠(そうこうわく) | たて糸を保持し、高速な上下運動に耐える軽量・高剛性な枠 | |
| 24 | 杼受装置 | 走行を終えた杼を、衝撃を吸収しながら定位置に停止させる | |
| 表1 無停止杼換式豊田自動織機(G型)の24の自働機構 | |||
これら24の自働機構は以下のような視点で分類することもできる。
これらが指揮者の下で演奏するオーケストラのように完璧に連携することで、人間がそばにいなくても「勝手に、きれいに、安く」布が織れるようになった。
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