世界最高の織機「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」はいかにして完成したのかトヨタ自動車におけるクルマづくりの変革(13)(4/6 ページ)

» 2026年06月30日 08時00分 公開

(4)杼換安全装置

 杼換が完全に行われず、旧杼が杼箱から排出されないまま運転が続くと、杼および機械を損傷する。そこで、杼換運動に故障があった場合に、運転を自動的に停止させるための装置が杼換安全装置である。

 無停止杼換式豊田自動織機(G型)に用いられている本装置は、特許第64601号(大正14年7月登録)、特許第83214号(昭和4年9月登録)、特許第85810号(昭和5年3月登録)に基づくもので、その構造は図6に示す通りである。

図6 図6 杼換安全装置の概要[クリックで拡大] 出所:四十年史 豊田自動織機製作所、トヨタ産業技術記念館

 図6(a)のように、杼換時、(1)シャットルが完全に排出されなくて、ボックスバックが上昇したままになると、付属のノッキングレバーも上昇したままとなり、(2)レースの動きに伴ってチェッカーを押し、(3)Aの棒がB点を中心に回転し、連結している機構が作動して織機を停止させる。

 空木管のシャットルが完全に排出されないときには織機が停止し、次の杼換が行われないように安全装置が働く。

 図6(b)のように、旧杼(1)が離脱しない場合にはノッキングレバー(2)が下がらず、レースソード(3)の後退につれて、(2)と(4)が衝突するため、ロッド(5)が左に引っ張られ、(6)(7)を経て、ハンドル(8)を外し運転を停止させる。また、(4)が押されることにより、コネクチングワイヤー(9)も後退して、キャッチ(10)が引っ張られ、(10)の押圧力によりつながっている(11)と(12)のかみ合いがはずれ、ノッキングビル(13)が点線位置に引き下げられるので、V字型ボルト(14)と接触しなくなり、ダブルチェンジを防ぐことができる。

 表3に、杼換安全装置の特徴を示す。杼換安全装置は、無停止杼換式豊田自動織機(G型)を完成する上で不可欠な、安全系を担保する「杼換不良時に織機を守る安全装置」であり、「機械安全の確保」、引いては作業中の人間への安全という役割を担っている。

装置名 主な目的 動作の仕組み 技術的効果 発明の意義
杼換安全装置 杼換不良時に織機を停止し、機械損傷やダブルチェンジを防止 ・旧杼が離脱しない場合、ノッキングレバー(2)が下がらず
・レースソード(3)の後退で衝突→ロッド(5)が引かれ、ハンドル(8)を外して停止
・コネクチングワイヤー(9)が後退し、キャッチ(10)が作動→ノッキングビル(13)が下がり、ダブルチェンジ防止
杼換不良による機械損傷を防止
異常時に確実に停止し、信頼性を確保
大正14年以降複数特許を取得。安全性を高める仕組みとしてG型に採用
表3 杼換安全装置の特徴

(5)杼換誘導装置

 杼換誘導装置は、連載第9回の図8(a)〜(c)で示した「プッシングスライダー(基本型)よこ糸補充装置」(特許17028号)の改良型である。

 図7に、杼換誘導装置の外観、平面図、動作原理図を示す。主要な改良部品になるのが、図7(b)内で青色で示されているトランスミッティングロッドである。木管に巻かれた糸が少なくなるとウェフトフィーラがこれを検出し、トランスミッティングロッドを介して杼換装置が働く。動作原理は以下の通りだ。

図7 図7 杼換誘導装置の外観、平面図および動作原理図[クリックで拡大] 出所:四十年史 豊田自動織機製作所、トヨタ産業技術記念館
  1. よこ糸量の検知:よこ糸の終了直前には、レース前進時に、(1)ウェフトフィーラの先端が木管の溝に入り込み、(2)クロススピンドルは回転せずフックとかみ合う
  2. 杼換誘導:クロススピンドルとフックのかみ合いにより、ウェフトハンマ、トランスミッティングロッドを介してノッキングビルはV型ボルトの揺動位置まで引き上げられる

(6)無停止自動杼換装置

 ここでは、無停止杼換式豊田自動織機(G型)の三大機構である安全装置、誘導装置、無停止杼換装置について説明する。中でも、中心的役割を果たすのが無停止自動杼換装置であることを強調しておきたい。

 豊田佐吉は1893年(明治26年)11月、予備杼溜をレース下に置き、管糸がなくなった際に杼を下から押し上げて旧杼を外へ脱出させる杼換の方式を考案したが、この方式は成功しなかった。その後、「自動杼換装置」(特許第17018号、1908年(明治41年)9月登録)に基づく「杼換準備装置」(特許50891号)から派生して、(5)で解説した杼換誘導装置と連動するように後に改良されたのが、連載第11回の図7に示した「プッシングスライダー式(二次型)自動杼換装置」である。プッシングスライダーを水平方向に運動させて杼換を行う特許65156号として、無停止杼換式豊田自動織機(G型)に装備された無停止自動杼換装置となった。

 この装置の特徴は、杼換時間を十分に確保できるため、杼交換が確実に行える点にある。佐吉の特許明細書では次のように述べられている。

本発明ハ簡易ナル構成ニシテ、如何ナル式ノ既製織機ニモ応用シ得、而モ歳枠前進ノ時間ニ於テ緩徐正確ニ杼換ノ操作ヲ完了スルヲ以テ、織機廻転迅速ナルモ杼換誤ナシ。故ニ有益最先発明ナリトス

 つまり、既存の織機に容易に応用でき、織機が高速回転しても杼換に失敗しないという点で画期的な発明だった。

  • 杼(シャットル)内のよこ糸の残量を、シャットルの1往復ごとに検出し、なくなる直前に織機を運転したまま予備のシャットルと交換する装置
  • 無停止杼換式豊田自動織機(G型)の最も主要な機構である

 図8に、無停止自動杼換装置の動作の仕組みを示す。

図8 図8 無停止自動杼換装置の動作の仕組み[クリックで拡大] 出所:四十年史 豊田自動織機製作所、トヨタ産業技術記念館

 この図8と、連載第9回の図8に示したプッシングスライダー(基本型)よこ糸補充装置の動作機構を見比べていただきたい。図8(A)〜(H)のように、リンク機構を成す多くの部品が改良されていることが分かる。

 無停止自動杼換装置の動作の仕組みは以下の通り。

  1. シャットル内のよこ糸が残り少なくなると、リフティングアーム(A)が時計方向に回転。これに連結するノッキングビル(B)が引き上げられ、V型ボルト(C)とかみ合う
  2. レースソード(筬框)(D)が矢印方向に前進すると、V型ボルト(C)がノッキングビル(B)を右方向に押す。これに連動する(E)(F)を介して、プッシングスライダー(G)が予備のシャットルを押し込む
  3. 新しいシャットルは杼箱内のよこ糸が少なくなったシャットル(H)と接触し、これを外側に押し出す
  4. レースソード(D)が前進し切ったところで、シャットル(H)は完全に外に押し出され、シャットルレシーバボックス(杼受箱)内に落ちる
  5. レースソード(D)が後退すると、ノッキングビル(B)はバネの作用でV型ボルト(C)とのかみ合いが外れ、元の位置に戻る

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