続いて、“空間的な実質値”と呼ばれる購買力平価換算値でも見てみましょう。
為替レート換算値はその時々の為替変動の影響を受ける時価のような側面がありますが、購買力平価換算値は物価水準をそろえた数量的な水準を推定した指標です。購買力平価換算値は、その国における生活実感を表現したものと受け止めると良いでしょう。どちら一方の見方が正しいというわけではなく、金額と数量の2つの見方があると捉えてください。
図5は、1人当たりGDPの推移を購買力平価換算値で国際比較したものとなります。
1人当たりGDP(購買力平価換算値)の推移を見ると、日本も含めて各国とも右肩上がりの推移となっています。数量的に見た平均的な豊かさは各国で向上してきたことになります。
日本の推移を見ると、1990年代は他の主要先進国並みとなっています。為替レート換算値だと、米国を上回ってかなり高い水準でしたが、当時は、為替レートがかなり円高に振れていたため他国から見れば高い水準でしたが、国内での国民の生活実感としては他の主要先進国並みだったということになります。
その後の日本の推移は、他の主要先進国と比べると上昇傾向が緩やかで、徐々にその差が開いてきました。また、ロシア、中国なども含めた、各国の水準が為替レート換算値よりもかなり高い水準となっています。
近年では米国の物価が高いので、その物価差を調整する購買力平価換算値で見ると、新興国ほど数値が大きくなる傾向となります。金額的には差があっても、生活実感としては相応の水準に達していることになります。
購買力平価換算値での1人当たりGDPの国際的な順位についても確認しましょう。図6が、最新となる2025年の購買力平価換算による1人当たりGDPの各国の順位です。
2025年の国際比較をしてみると、日本は5.7万ドルで199の国/地域中39位となりました。為替レート換算値が38位だったことと比べると、あまり換算方法での順位変化はないようです。
1997年の購買力平価換算における日本の1人当たりGDPの順位は21位でした。当時からすると購買力平価換算値でも徐々に国際順位が低下していることになります。
当時は為替レート換算値では日本は3位でしたので、実際の生活実感としてはそこまで高くなかったことになりますね。プラザ合意を機に急激に円高が進んだこともあり、当時の日本は他国から見れば非常に割高な国だったようです。他国から見た金額的な水準は高くても、物価(価格水準指数)も高かったので、国内で感じる生活実感はそれほど高くなかったことになります。
本記事では、IMFデータベースを基に、各国の平均的豊かさといえる1人当たりGDPの国際比較をご紹介しました。日本を含め多くの国々で人口が減っていくため、GDPそのものよりも人口1人当たりGDPの方が各国の豊かさを良く表す重要な見方となります。
その中でも、国際的な金額水準となる為替レート換算値と、国内における生活実感に近い購買力平価換算値の2つの見方があることを紹介しました。
特に近年では購買力平価換算値が重視されていて、今回のIMF(国際通貨基金)だけでなく、国連、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)、ILO(国際労働機関)などでも購買力平価換算値でさまざまなデータを扱うのが主流となっています。
日本経済のピークであった1990年代は、為替レートが円高傾向だったこともあり、為替レート換算値は非常に高い水準となっていました。当時は、デジタル機器や自動車、半導体などの先端分野で日本の産業は強く、経済水準が高かったことも確かだと思います。
一方で、当時は他国から見れば極端に円高だったこともあり、物価水準が高く、実際の人々の生活実感はそれほど高いわけではなかったようです。失われた30年のうちに、為替レート換算値でも購買力平価換算値でも相対的に日本の立ち位置は低下してきました。
IMFでは5年後の2031年までの予測値についても公開しています。それによると、2031年の日本の立ち位置は為替レート換算値で43位、購買力平価換算値で45位となっていて、さらに国際順位が低下していくと予測されています。
為替レートも150円/ドル程度が定着しつつありますが、今後国際的な立ち位置を再び高めていけるのか、大きな岐路に立たされているようにも思います。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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