現在、パナソニック エナジーが量産しているEV向け円筒形リチウムイオン電池は第4世代で、ハイニッケルを正極に、シリコンを負極に用いており、1セル当たりの体積エネルギー密度は800Wh/L超となっている。2012年に供給を開始した第1世代と比べて3倍以上に向上した。
「リチウムイオン電池の中身の進化を継続しており、EVの走行距離の延長にも貢献している。現状はさらなる『高容量化』が求められている他、コストダウンが望まれている」(渡邊氏)。
高容量化の取り組みに関して、同社は現行材料の改良で1セル当たりの体積エネルギー密度が900Wh/Lの円筒形リチウムイオン電池の技術開発を2025年度末に完了する予定だ。2027年度末には新たな材料を用いて1セル当たりの体積エネルギー密度が1000Wh/Lの円筒形リチウムイオン電池の技術を完成させる計画である。
シリコンの添加量を増やすことで高容量化を目指している900Wh/Lの円筒形リチウムイオン電池では、充放電時の膨張を抑えつつ、第4世代と同等以上の性能を保てる技術の開発を進めている。
1000Wh/Lの円筒形リチウムイオン電池は、アノードフリー型リチウム金属負極を採用することで、実現を目指している。同電池は、完成時に負極活物質がない状態で、最初の充放電時にリチウム金属が析出することで負極が生成され、機能するという。完成時に負極がないため、体積エネルギー密度の向上に貢献する正極材料の体積を増やせる見込みだ。
コストを下げつつ容量を上げるアプローチとして、ニッケルの使用量を削減した正極材の開発を検討している。第4世代の円筒形リチウムイオン電池に正極材として採用されているハイニッケルは全体のうち90%以上をニッケルが占めている。既に同社はニッケルの使用量を全体の50%に抑えた正極材の開発を始めており、これを備えた円筒形リチウムイオン電池で、現行のハイニッケル正極材を搭載した円筒形リチウムイオン電池より放電容量を5%高め、メタルコストを約60%に抑える。
これらの材料開発ではデジタル技術も活用しているという。渡邊氏は「以前は、実験を中心に材料開発を行っていた。現在は、これまでのリチウムイオン電池開発で培ったデータベースを基にマテリアルズインフォマティクスやシミュレーションなどを行い、用途に合った材料を予測できるようになった。材料開発のリードタイムはこれまでと比べて6分の1になっている」とコメントした。
また、環境配慮の取り組みとしては、生産するEV向け円筒形リチウムイオン電池のカーボンフットプリントを下げようとしている。そのために、同電池で使う材料の地産地消を実現するサプライチェーンの構築を進めている。「サプライチェーンの間にプレイヤーが多いとコストが高くなってしまうため、鉱山から直接材料を調達できるようなアプローチを目指している。戦略材料であるニッケルは、鉱山があるオーストラリアやカナダとの協力を検討している」(渡邊氏)。
ちなみに、同社は消費地である北米でリチウムイオン電池の生産を2017年にスタートしている。2017年にネバダ州リノのネバダ工場で、2025年にカンザス州デソトのカンザス工場でリチウムイオン電池の生産を開始した。これらの取り組みでもサプライチェーンの効率化を図っている。
同社は空飛ぶクルマ(eVTOL)もターゲットの一つとしており、そのために重量エネルギー密度を重視した電池の開発を推進している。今後は、体積と重量、両方のエネルギー密度を重視しながら、電池開発をサプライチェーンの構築を進める。
渡邊氏は「ドローン向け電池の市場はレッドオーシャンになっているが、人を乗せて飛行するeVTOLに備える電池は、ドローン向けと比べて高い性能が求められるため、当社の技術が生かせるとみている。さまざまな電池市場で多くのプレイヤーが台頭する中で、技術的な難易度は高いがレッドオーシャンになっていないeVTOL向け電池に挑戦し、ビジネスを成立させていく考えだ」と明かした。
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