EV向け「4680セル」電池の量産準備完了、パナソニック エナジーが和歌山工場で工場ニュース(1/2 ページ)

パナソニック エナジーは、EV向け円筒形リチウムイオン電池の最新型となる「4680セル」の量産準備を完了し、同セルのマザー工場となる和歌山工場の開所式を行った。今後、戦略パートナーの最終評価を経て量産を開始する。

» 2024年09月10日 05時30分 公開
[三島一孝MONOist]

 パナソニック エナジーは2024年9月9日、電気自動車(EV)向け円筒形リチウムイオン電池の最新型となる「4680セル」の量産準備を完了し、同セルのマザー工場となる和歌山工場(和歌山県紀の川市)の開所式を行った。今後、戦略パートナーの最終評価を経て量産を開始する。

photo パナソニック エナジーの和歌山工場の外観。映っている建屋で組み立て生産を行い、隣の建屋で検査を行っている[クリックで拡大]

生産工法の革新により4680セルで高性能と高信頼性を実現

photo パナソニック エナジーの4680セルリチウムイオン電池のモックアップ(一番右側)。左側は1865セル、中央は現行の2170セル[クリックで拡大]

 EV向け円筒形リチウムイオン電池では従来2170セルが使われてきたが、4680セルはこの約5倍の容量を持ち、EVの航続距離の延長やバッテリーパックの生産効率化、EVコストの低減などに貢献することが期待されている。加えて、パナソニック エナジーでは4680セルにおいては「業界最高水準」(同社調べ)のエネルギー密度での生産を可能とした。

 同じエネルギー容量に対する電池セルの使用個数が減るため、設備投資の削減や組み立て人員の削減、部品点数の削減などにつながる。加えて、これらのリチウムイオン電池を採用するEVメーカーなどからすると、電池セルを組み合わせてパック化する際に溶接点数が約5分の1になるなど組み立て工数を大幅に削減できる他、接続/冷却部品点数の削減、充填(じゅうてん)効率向上などのメリットがあるという。

 パナソニック エナジー 社長執行役員 CEOの只信一生氏は「4680セルを採用した大容量化による利点で、採用する自動車メーカーにとっては非常に大きなメリットを生み出すことができる。加えて独自で調べた調査では、競合他社の4680セルのエネルギー密度よりも10%程度の高密度を実現することができている。4680セルへの期待は高まっているがその中でも差別化できる」と語っている。

photo 4680セルの利点[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー

 一方で1セル当たりのエネルギー容量が大きくなる4680セルの製造工程はより高度な技術や工法が求められるが、パナソニック エナジーでは約30年にわたる円筒形リチウムイオン電池の生産技術開発やノウハウなどを活用して4680セルの量産技術を確立した。

 只信氏は「単純に容量が大きくなるだけだと見られがちだが、安全性を保ったまま性能を上げるために、モノづくりの工法や生産ラインとしてはいくつものイノベーションが必要だった。こうして生まれた技術を国内外の工場で横展開していく」と述べている。

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photophoto パナソニック エナジー 和歌山工場の検査ラインの様子[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー

 和歌山工場は従来、リチウムイオン電池の部品製造を行ってきたが、今回の4680セルの生産に向けてリニューアルを行った。部品製造も続けるが、新たに4680セル生産のマザー工場とする。生産拠点としての役割だけでなく、新製品や新工法の実証拠点としての役割も担う。リニューアルに関する総投資額は約700億円で、その内200億円は政府からの補助金でまかなっているという。今後は、国内外の工場に実証結果を展開することで製品品質やモノづくり競争力のコア拠点としていく。2024年度(2025年3月期)中には約400人の人材を確保する計画だ。

 開所式で、パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は「パナソニック ホールディングスでは、環境コンセプトとしてPanasonic GREEN IMPACTを推進しているが、その中でモビリティ事業は大きな比率を占める。われわれは4680セルを重要な戦略製品と位置付け、製品そのものの価値に加え、和歌山工場で培った技術を生かし、電池セル生産自体の効率化などにつなげていく」と語っている。

photo 和歌山工場の開所式の様子[クリックで拡大]

和歌山工場はCO2ゼロ工場化を達成

 なお、パナソニック エナジー 和歌山工場は太陽光発電や陸上風力発電などの再生可能エネルギーを活用したCO2排出実質ゼロ工場として4680セルの量産を開始する計画だ。同様にパナソニック エナジーでは、大阪の守口拠点と貝塚工場についても今回CO2排出量をゼロ化し、国内全9拠点でカーボンニュートラルを達成したとしている。さらに、2028年度中にはグローバル全20拠点でのカーボンニュートラル達成を目指す。

photo 和歌山工場の環境対応[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー
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