パナソニック エナジーがハイニッケル正極材を実現した策と次のターゲットとは?EV向け高機能材料インタビュー(2/3 ページ)

» 2026年03月12日 07時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

ニッケル材料の課題を「水洗い」で解決

 ハイニッケルの開発では苦労も多かったという。渡邊氏は「1990年初頭に、多くの電池メーカーが、コバルト系のコバルト酸リチウムが正極材になると分かったとほぼ同時期に、ニッケル系のハイニッケルが正極材になると理解していた。コバルト系よりもニッケル系の方が高い容量だというのも判明していた。しかし、ニッケル系の材料は合成が難しいだけでなく、正極材としてアルカリ性が高いという性質があった。このため、吸湿しやすく水に弱いという問題もあった」と振り返る。

 この解決策として、「ニッケル系の材料を『水で洗う』という荒技(水洗処理)を導入した。水洗処理を行ってもハイニッケルの性能を落とさず、さらに性能を上げるプロセスも取り入れた。これらの取り組みがニッケル系正極材開発の課題を解消した1つのブレークスルーとなった」という。

 ハイニッケルの開発では熱安全性も問題となった。原理的にニッケル系正極材はコバルト系正極材と比べて熱安定性が低い。「そこで当社は、世界で初めて円筒形リチウムイオン電池のセパレーターに短絡しても燃焼しない『耐熱層セパレーター』を採用した。つまり、耐熱層セパレーターを用いて円筒形リチウムイオン電池全体で、ハイニッケルの熱安定性をカバーした。今ではセパレーターへの耐熱層の搭載は、国内外のリチウムイオン電池のほとんどで採用されている」(渡邊氏)。

パナソニック エナジーの円筒形リチウムイオン電池 パナソニック エナジーの円筒形リチウムイオン電池[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー

 一方、ハイニッケルを正極に、黒鉛を負極に活用した同社の円筒形リチウムイオン電池を本格的に供給開始した2012年と比べて、現在はEV市場の勢いは減速している。

 渡邊氏は「米国の大手EVメーカーがEVの開発や販売で成功するまでは『EV市場は成立しないよね』という空気があった。この大手EVメーカーがEVで成功して、多くの自動車メーカーが『EVは商品になる』と判断したと考えている。これらの自動車メーカーがEVの開発や販売に注力し、展開を拡大していたのが2024年ごろまでだと思う。2024年ごろまでは米国や欧州がさまざまな施策でEVの導入を推進していた。2025年に誕生した第2次トランプ政権の影響もあり、EV市場は大きく変わった」と指摘する。

 ただし、「EV市場は減速しているが、現在は米国で販売されている新車におけるEVの比率は8〜10%だ。日本で販売されている新車におけるEV比率は1%余りとなっている。そのため、一時期の『今後はEVが(自動車市場の)半分以上を占める』という米国の勢いはなくなったが、それでも日本と比べて5〜6倍ほど売れている。当社は早期に円筒形リチウムイオン電池に投資判断したこともあり、投資回収も進んでいる」と補足した。

各国におけるリチウムイオン電池の生産能力拡大とコストダウン 各国におけるリチウムイオン電池の生産能力拡大とコストダウン[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー

 日本のEV向け電池が減速しているように感じられる要因として、中国電池メーカーの台頭があるという。渡邊氏は「中国の電池メーカーの比率が高くなっている影響により、当社のグローバルシェアは落ちているものの、米国のEVシェアトップが顧客であるため、電池の生産量は増えている。EVだけでなく、電池を利用するさまざまな製品なども展開している。いずれも電池が必要なビジネスモデルのため、当社の張り所は間違っていないと思う」と考えを示した。

北米におけるパナソニックエナジー製の車載電池の状況 北米におけるパナソニックエナジー製の車載電池の状況[クリックで拡大] 出所:パナソニック エナジー

 また、中国のEVメーカーを中心に近年、セルをモジュール化せず直接パックに組み込む技術「Cell to Pack(セルトゥパック)」が採用されたことで、急速にリン酸鉄系電池(LFP)パックの体積エネルギー密度が増加している。Cell to Packされたリン酸鉄系電池の中には、円筒形リチウムイオン電池と同レベルの体積エネルギー密度を実現したものもある。

 渡邊氏は「『リチウムイオン電池でどうやってLFPに対抗するか』となったときに、リサイクル性があると考えている。LFPに利用されている鉄は新たに調達した方が安いのでリサイクルのモチベーションが低い。ハイニッケルの円筒形リチウムイオン電池は、リチウムやニッケルなどの高価なレアメタルを回収できる構造であり、リサイクルする価値が大きい。そのためのリサイクルシステムを構築していきたい」と触れた。

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