ミーゼス応力は、材料が降伏するかどうかを判断するための指標です。鉄やアルミなどの金属は、ある応力を超えると元に戻らない変形を始めます。この現象を降伏といいます。強度設計では、まずこの降伏の有無を確認することが重要です。
しかし実際の部品内部では、応力は単純な引張だけではありません。引張/圧縮/せん断が同時に混在した複雑な状態になっています。このままでは、材料試験で得られた降伏応力と直接比較できません。
そこで考え出されたのがミーゼス応力です。複雑な応力状態を、「材料が降伏するか」という観点で1つの数値にまとめたものです。いわば、さまざまな方向から受けている力を総合評価し、引張試験の結果と比較できる形に変換した値といえます。そのため、ミーゼス応力が材料の降伏応力より小さければ弾性範囲内、大きければ降伏すると判断できます。
ミーゼス応力は方向を持たない値であり、どの方向に危険かは示しません。一方で、どれだけ降伏に近いかは示します。言い換えれば、複雑な応力状態を整理し、材料が塑性変形を起こすかどうかを判断するための“まとめ値”です。
したがって、
によって使い分けます。破壊の種類が異なれば、見るべき応力も変わります。
応力ピークが出ていても、
を検討する必要があります。CAEは答えを出す道具ではなく、判断材料を可視化する道具です。
重要なのは、「どの応力を見るべきか」を先に決めることです。
設計目的が明確になれば、見るべき応力も明確になります。
応力を理解するとは、CAE画面の色分布を眺めて良否を判断することではありません。赤いから危険、青いから安全といった表面的な見方では、本当の設計判断にはつながりません。重要なのは、その数値が何を意味しているのかを考えることです。
そこに現れている応力が、引張による割れの兆候なのか、降伏による塑性変形の可能性なのか、それとも圧縮による座屈の前触れなのかを見極める必要があります。応力の種類と材料特性、荷重条件を結び付けて考えることで、初めて「この部品はどのように壊れる可能性があるのか」を想像できるようになります。
つまり応力を理解するとは、解析結果を受け身で見ることではありません。そこから破壊のシナリオを読み取る力を身に付けることです。CAEはあくまで可視化の道具であり、最終的に壊れ方を予測し、設計へ反映させるのは設計者自身です。
その視点を持てたとき、初めて「色を見る設計者」から「壊れ方を予測できる設計者」へと一歩進むことができます。
次回は「信頼性設計」についてお話しします。(次回へ続く)
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