自国から見て直接投資で重要なのは、海外での活動の結果どれだけの直接投資収益が得られるかという収益(フロー面)です。いくら海外事業が拡大しても、その生産活動は海外で行われるわけですから、経済的な恩恵は海外現地国に発生します。日本への恩恵は、対外活動の結果得られた純利益の分配である直接投資収益というわけです。
そこで、直接投資収益についても、各国の状況を可視化してみましょう。図4は各国の直接投資収益を、受け取りの多い国順に並べたものです。
直接投資収益については、自国から見て対外直接投資収益が受け取り、対内直接投資収益が支払いとなります。基本的には直接投資残高が多いほど積極的に投資を増やしていることになりますから、その分配となる直接投資収益が多いという関係になります。
直接投資収益で最も規模が大きいのはやはり米国です。受け取りで5757億ドル、支払いで3073億ドルとどちらも非常に大きな規模となっています。直接投資残高では対内直接投資の方が超過していますが、直接投資収益では受け取り(対外直接投資)の方が上回るという非常に特徴的な傾向も確認できます。
日本も受け取りが大きく超過していて、正味の純受け取り額は米国に次ぐ水準となっています。ただし、直接投資残高で見ると対内直接投資と比べ約10倍の水準だったのに対して、直接投資収益では4倍程度となっています。
特徴的なのはアイルランドです。直接投資残高では均衡していますが、直接投資収益では支払いが大きく超過しています。
このように、各国で多少の傾向の違いはありますが、おおむね直接投資残高と直接投資収益は強く関係していることが確認でき、直接投資収益も多くの国で受け取りと支払いが相応の水準で均衡しています。
直接投資残高に対して、どれだけの割合が直接投資収益となっているのかという運営効率面も見ていきましょう。図5は各国の直接投資収益効率をマッピングしたものです。
直接投資収益効率は、直接投資収益を直接投資残高で割った数値です。残高に対する収益の効率を表します。
緑の線が、対外直接投資収益効率と対内直接投資収益効率が1:1となる線です。この線より上側に位置すれば対外直接投資が効率的で、海外との直接投資の関係において自国に有利な条件の国と考えることができます。
一方で、この線より下に位置すると、対内直接投資効率の方が高いため、海外からの少ない投資にもより多くの収益を支払う関係にあり、条件的に不利な国となります。
基本的には多くの国が、この線に沿って分布しています。米国、英国、ドイツ、フランスなどは、対内直接投資効率が3〜5%程度に対して、対外直接投資効率が6〜7%と対外直接投資効率の方が上回っています。直接投資の関係性においては、自国により有利な投資関係となっていることが分かりますね。
アイルランドは対外直接投資効率に対して、対内直接投資がかなり大きく、外国企業から見ればより少ない投資でより大きな収益が得られる仕組みとなっています。
日本もアイルランドの状況に近いことが読み取れます。対外直接投資収益は他の主要先進国と同程度ですが、対内直接投資効率が10%を超えています。日本の対内直接投資は少ないのですが、その割に直接投資に対する支払いの割合が高いという特徴もあるようです。
逆に言えば、海外企業にとっては投資効率が良く、もっと対内直接投資が増えても良さそうなものです。それでも日本の対内直接投資は他国と比べて圧倒的に少ないことを見ると、収益面以外の阻害要因が多いことが考えられます。
今回は、企業活動のグローバル化で非常に重要となる直接投資の規模やバランスについて紹介してきました。多くの国で、対外直接投資と対内直接投資は相応の水準で均衡しています。企業活動においては双方向的なグローバル化が進んできたことが感じ取れます。
特に、主要先進国においては直接投資収益がプラスとなっていて、対内直接投資よりも対外直接投資の方が効率の良い条件となっていることも確認できました。
一方で、海外との関係において日本は特殊な状況となっています。他国並みに対外直接投資が進んでいる一方で、圧倒的に対内直接投資が少ないのです。
これにより、収益面(フロー)では海外からの受け取りが大きく超過していて、日本全体の経常収支や企業の営業外収益を押し上げています。残高面(ストック)では、海外に持つ資産の方が大きく超過しており、日本全体の対外純資産の多くの割合を占めています。
日本は海外からの受け取りの方が多かったり、海外に対する純資産が多かったりすることが指摘されますが、対外関係が対外直接投資に偏っているからこそ、このような状況となっているわけです。
ここまでの連載で見てきたように、既に日本は安い国となり、海外との関係性も変化しつつあります。TSMCの日本進出が話題ですが、これは対内活動となりますね。外国企業によって、日本で生産活動が行われ、多くの日本人が雇用され働いています。今後はこのような対内活動が増えていくと、海外との収益の受払いや、純資産のバランスも大きく変化していくかもしれません。
経済安全保障の重要性が高まる中、今後海外との関係性がどのように変化していくのか、継続的にチェックしていきたい観点といえます。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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