コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第15回のテーマは「海外での事業展開におけるデジタルマーケティングの活用方法」だ。
国内市場の縮小に伴い、日本企業は海外での事業展開に関心を寄せている。以下のグラフは、外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」をもとに、海外に進出した日系企業の拠点数の推移を表したものだ。
グラフから分かる通り、日系企業の海外拠点数は、ここ10年で約3割増えた。そこで本記事では、今後も拡大が続くと予想される日本企業の海外での事業展開におけるデジタルマーケティングの活用方法を紹介する。海外拠点を持たない企業であっても、デジタルマーケティングを行うことで、海外市場へ自社商材を展開できる可能性が広がる。
デジタルマーケティングとは、各種デジタル媒体を活用したマーケティング手法である。似たような言葉として「オンラインマーケティング」や「インターネットマーケティング」があり、どれもほぼ同じ意味で使用されている。
特に海外展開を検討している企業にとって、対面での営業活動と同程度に、これらの非対面の営業(マーケティング)活動の重要性は増している。
海外展開を検討する企業がデジタルマーケティングに取り組むべき理由は、大きく分けて3つある。
1つ目は、海外の顧客(企業)が、購買プロセスのさまざまな場面でデジタル媒体を使用しているからである。以下の図は、B2Bビジネスにおける、典型的な顧客の購買までの行動(プロセス)を表している。
Gartnerは「B2B顧客は購入の際、予測可能な直線的な順序で行動するわけではない。顧客は典型的なB2Bの購入行動として、6つのJob(ジョブ)を最低1回は訪れてから購入する『ルーピング』を行う」としている。以下が6つのジョブだ。
各ジョブの周囲に記載されている細かな文字と矢印は、「顧客が各ジョブを移動する際に取る可能性がある行動」「行動の結果」「参考にする情報」を示している。これらの情報をみると、顧客は購買プロセスにおいて、以下のようなデジタル媒体を使用する可能性があることが分かる。
また、Gartnerとは別の、Webメディアを展開するGardnerによる調査結果(The Industrial Buying Influence Survey)では、製造業の購買プロセスで担当者が最も活用する情報源に、「サプライヤーのWebサイト(69%)」が挙げられている。
このように、デジタル媒体はB2B企業の購買プロセスで頻繁に使用される情報源の1つだ。デジタル媒体から情報発信をすることで、高い確率で見込み客との接点が持てる。
2つ目は、デジタル媒体の汎用性の高さである。デジタル媒体で制作したコンテンツは、物理的な制約なく、世界中で使用できる。
例えば、特定の商材を紹介する動画を制作する場合、1つの動画に対して複数言語の字幕/ナレーションを付与することで、異なる国と地域への営業活動にも利用可能になる。これは動画に限った話ではない。Webサイトに掲載する文章やイラスト画像など、デジタル媒体は、紙のパンフレットなどのオフライン媒体に比べて、圧倒的に拡散や二次利用が容易である。このメリットは、直接の営業が難しい海外事業展開において大きな力を発揮する。
さらにデジタル媒体は、従来の対面での営業活動にもプラスの影響を与える。製品の販促用に制作したWebサイトは、Webサイト単体で集客ができるだけでなく、各種展示会や対面での営業活動における補足資料、顧客とのデータ共有という面でも有効活用できるからだ。
3つ目は、デジタル媒体の柔軟性の高さである。これは企業が海外展開する目的に応じて、柔軟に手法を選定できるという意味でもある。
例えば、従来の営業活動では実現が難しかった「全世界を対象とした新規顧客開拓」や「特定の企業に絞った営業活動」が、デジタルマーケティングの活用で実現できる。この点に関しては、次項の「海外向けデジタルマーケティングの方法」で詳しく解説する。
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