日本の技術が宇宙へ――JAXAの新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」に、出光興産の次世代太陽電池が搭載される。銅、インジウム、ガリウム、セレンを用いた独自の「宇宙用CIGS太陽電池セル」は、軽量ながら高い放射線耐性を誇る。過酷な宇宙環境で約2カ月にわたる性能検証に挑む。
出光興産は2025年10月17日、開発を進める宇宙用CIGS太陽電池セルが、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が行う次世代宇宙用太陽電池の軌道上実証「SDX」の暴露部(宇宙空間にさらされる部分)に搭載されると発表した。SDXは、JAXAが開発する新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」が宇宙空間で行う実証の1つで、太陽電池の出力を定期的に計測し、宇宙軌道上で正常に動作することを確認する。
CIGSは、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の頭文字からなる化合物半導体だ。
JAXAが2025年秋に打ち上げを予定しているHTV-X1は無人物資補給機「こうのとり」の技術を継承し発展させた次世代の無人補給船だ。HTV-X1は打ち上げ後、国際宇宙ステーション(ISS)への係留/物資の搬入を行い、ISS離脱後は宇宙軌道上にて飛行を行いながら、さまざまな技術実証ミッションを実施する。
この技術実証のうちの1つが、高度300〜400kmで次世代宇宙用太陽電池の性能を約2カ月にわたりモニタリングするSDXだ。
宇宙空間は真空で、かつ放射線/極端な温度差があり、そのような過酷な状況でも、補給機や人工衛星などの宇宙インフラにエネルギーを供給できる高性能な太陽電池の開発が期待されている。出光興産が開発する宇宙用CIGS太陽電池は高い放射線耐性を持つ点や、将来的に宇宙産業におけるコストダウンへの寄与が期待できる点から、宇宙用太陽電池の研究の一環として、SDX実証装置への搭載に至った。同社はSDXを通し、宇宙用CIGS太陽電池セルの宇宙空間におけるこれらの特性および発電の安定性を検証する。
出光興産グループは、1970年代のオイルショックを契機に新規ビジネスの開拓に取り組んできた。30年以上にわたって研究開発を行ってきたCIGS太陽電池もその1つだ。2022年からは同社の次世代研究所に研究開発機能を集約し、宇宙用途などの次世代太陽電池の開発/事業化に挑戦している。
長年にわたる研究開発と累計6GWを超える地上用太陽電池パネルの量産実績を基盤とした同社の宇宙用CIGS太陽電池は、基材の表面にμm単位の薄い膜を形成する独自の薄膜技術により高い放射線耐性と軽量化を両立し、放射線が降り注ぐ過酷な宇宙環境でも優れた性能発揮が見込める。さらに、放射線によるダメージを自己修復でき、性能劣化が最小限に抑えられるため、衛星の安定稼働と長寿命化を実現する。
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