出光興産がスマートセルの開発を開始、神戸大学に研究拠点を設置研究開発の最前線

出光興産の先進マテリアルカンパニーは神戸大学先端バイオ工学研究センターに出光バイオものづくり共同研究部門を設置した。同部門では、バイオ燃料、バイオ化学品、バイオ農薬などを製造するスマートセルの開発に取り組む。

» 2023年10月04日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 出光興産の先進マテリアルカンパニーは2023年10月2日、オンラインで会見を開き、バイオものづくりバリューチェーンの構築に向け、神戸大学先端バイオ光学研究センター(神戸市灘区)に「出光バイオものづくり共同研究部門」を設立したと発表した。

 バイオものづくりは、遺伝子改変技術と情報解析を組み合わせて目的物の生産量を最大化した生物/細胞である「スマートセル」を活用して有用物質を効率的に生産する技術だ。現在は、バイオマスなどから得られた糖などを原料とするプロセスの実用化が推進されている他、CO2を直接原料とする研究開発も進められており、いずれも持続可能な社会の実現に貢献する技術として期待されている。

まずはバイオ農薬や油脂を生産するスマートセルを開発

 これまでのバイオものづくりは、自然界で発見された微生物や発酵/精製技術で抗生物質、発酵食品、エタノールを生産してきた。一方、出光バイオものづくり共同研究部門では新しいバイオものづくりに挑戦する。新しいバイオものづくりでは、遺伝子を改変した微生物であるスマートセルやAI(人工知能)/ICTを駆使した工学を組み合わせて、医薬品や食品、化成品、燃料を開発する。

これまでのバイオものづくりと新しいバイオものづくりの違い[クリックで拡大] 出所:出光興産

 同社 先進マテリアルカンパニー 技術戦略部 戦略企画室 企画グループの羽毛田匡氏は「化学プロセスの高温高圧条件下の生産と比べ、バイオプロセスは常温常圧条件下の生産に対応しているため低エネルギー/低CO2排出量を実現できると期待している。化学プロセスでは生産が困難な炭素数が複雑な物質もバイオプロセスでは生産できることに加え、水素、CO2、糖(バイオマス)などを原料とした資源循環も行える」と強調する。

 世界に目を向けると、バイオ技術は第5次産業革命を起こすとされ、米中で大規模投資が行われ、国際競争も激化している。日本政府もバイオ戦略を策定し、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会の実現」を目指し、官民で取り組みの強化を推進中だ。

バイオものづくりの世界の動き[クリックで拡大] 出所:出光興産

 これらの状況を踏まえて、出光バイオものづくり共同研究部門では、政府が推奨するCO2削減の取り組み「カーボンニュートラルトランジション(CNX)」で利用されている資源(バイオマスなど)を活用し、主に付加価値が高い目的物質の生産による循環型社会の実現を目指す。

出光バイオものづくり共同研究部門が目指すバイオものづくり[クリックで拡大] 出所:出光興産

 製造する目的物質の社会実装に向けバリューチェーンも構築する。具体的には、バイオマスなどの原料調達、微生物(スマートセル)設計、石油化学の工学技術を応用した生産(培養/発酵)、生産品を用いた高付加価値製品の開発から成るバリューチェーンを作り上げる。その構築に向け、既に神戸大学発のバイオベンチャーでバイオファウンドリ事業を展開するバッカス・バイオイノベーションに出資している。さらに、バイオものづくりバリューチェーン上の要素技術であるスマートセル設計技術の強化を目的に神戸大学に出光バイオものづくり共同研究部門を設け、微生物設計/開発を加速している。

出光バイオものづくり共同研究部門が構築するバイオものづくりのバリューチェーン[クリックで拡大] 出所:出光興産

 なお、出光バイオものづくり共同研究部門の設置期間は2023年10月1日〜2025年3月31日で、設置場所は神戸大学先端バイオ工学研究センター、期間中の研究開発費は約1.3億円としている。神戸大学の研究代表者は神戸大学 先端バイオ工学研究センター 教授の蓮沼誠久氏、出光興産先進カンパニーの研究代表者は同社 環境・バイオ研究室長の金田晃一氏が務める。同社から特命教授として研究員も派遣する。取り組み課題として、特定の化合物製造のための基盤となるスマートセル開発に着手する。まずはバイオ農薬や油脂を生産するスマートセルの開発から行う。

出光興産の先進マテリアルカンパニーについて

 出光興産の先進マテリアルカンパニーは、技術立脚型マネジメント体制を構築し、迅速/的確な意思決定を行うことを目的に2022年7月1日に発足された事業会社で、技術戦略部、電子材料部、機能化学品部、リチウム電池材料部、機能舗装材事業部の5部門を扱っている。成長戦略として、2030年に向け、現行事業の収益最大化や成長事業領域「電化・電動化ソリューション」「バイオ・ライフソリューション」「ICTソリューション」への“重点的リソース配分”の実行によりポートフォリオの転換を進めている。

出光興産の先進マテリアルカンパニーのイメージ[クリックで拡大] 出所:出光興産

 今回の発表は成長事業領域のバイオ・ライフソリューションに関する事業だという。同社 先進マテリアルカンパニー 技術戦略部 戦略企画室 室長の水野洋氏は「炭水化合物である燃料や化学品で価値を提供してきたわれわれは、合成生物学、スマートセルという微生物の力を高めるイノベーションにより高付加価値の循環型炭素化合物を提供し、社会や人々の暮らしを支えることを目指したい」とこの事業への思いを語った。

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